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第290話

【雪夜side】 いつもなら、誰もいないはずの俺の部屋で。 今日は俺の帰りを待つ星がいたから、お互いに我慢した分、求めてしまえば歯止めなんてきかなかった。 ……やべぇーな、ヤりすぎちまった。 プラネタリウムのときも、かなり無理をして耐えていたんだが。自分の家に星がいたら、理性なんてものはないも同然だった。 ベッドで眠る星の表情はとても幸せそうな顔をしているが、疲労感は残ったまま。もう無理だと涙を流して首を横に振っていた星を、俺は疲れ果てて眠りに就くまで抱き潰してしまった。 明日は一日、外出なんてできないだろう。 ここまで見越してバイトの休みを調整した過去の自分を、俺は褒め称えてやりたいくらいだ。 16歳になった星も変わらずに魅力的だ、なんて。そんなふうに思う俺は、やはり浮かれた頭をしているのだろう。 いつになったら、この浮ついた感覚は落ち着くのだろうか。光と優のように、もしかしたら俺もアホなままなのかもしれない。 その根拠は、おそらくコレが関係している。 昨日すっかり渡しそびれた、星へのプレゼント。煙草を咥え、火を点つけて、俺は自らの手で封を開けた。タオルケットからすらりと覗く星の左足首に、ゴールドのアンクレットをそっとつけてやる。 本当は、指輪をプレゼントしてやりたかったけれど。学校があるし、調理関係なら尚更、指輪はNGだ。そう思い、普段からつけていても見えにくいアンクレットを選んだが。 星が欲しいと強請った物ではないため、本人が気にいるかは今のところ不明だ。 コレは、俺から星が逃げていかないための足枷……なんて言ったら、星は不思議な顔をして俺を見るんだろう。 左足につけるアンクレットは、誰かの所有物であり、恋人又は結婚相手がいる……なんて意味を持つらしい。どれくらいの人間がその意味を理解しているのかは定かではないが、星が俺だけのモノだと少なからず示すことはできる。 二重チェーンで小さな星のモチーフがキラリと光るアンクレットは、細く白い星の足にとても良く似合っていた。 ……ん、すげぇーキレイだ。 眠る星を眺めて、のんびりと煙草を吸う。 バイト続きの毎日を頑張って良かったと思えるのは、こうやって星に会える日があるからこそだ。 合鍵を渡したのも、少しでも星と過ごせる時間を増やすため。どのみち、この家に入れるヤツなんて星以外誰もいないのだから。 カーテンの隙間から入ってくる西日が、ゆっくりと姿を消していく。すっかり日没までの時間が長くなり、夏を感じずにはいられない日が続いているが、真夏と呼ぶには少しだけ気が早いだろうか。 それにしても、今日は暑い。 晩メシは、冷製パスタにでもしよう。 眠る仔猫が目覚めるとき、俺に囚われているコトを知ったら、どんな顔をするのだろう。そんなことを思いながら、煙草を吸い終えた俺は星の頬にキスを落とした。

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