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第292話
「白石さんって、本当に綺麗好きですよね」
食事を終えてキッチンで洗い物を済ました俺に、ソファーで寛いでいた星はそう言ってステラを抱きしめる。
「そうか?普通だろ」
康介にも、似たようなことを言われた気がする。綺麗好きと言われるほどのことなんて、しているつもりはないんだが。
内心そんなふうに思いつつ、洗い物を終えた俺は、星からリクエストされたアイスココアを作っていた。もちろん、ミルク多めの、砂糖たっぷり。
ロック氷がいくつか積み重なるグラスの中に、甘ったるい香りのココアを注いでいく。部屋の中に充満していく甘いココアの香りと、カランコロンと音を立てて溶け出す氷。
俺はコーヒーとココアが入ったグラスを持ち、星がいるソファーに腰掛けた。
「ん、コレ星のアイスココア……今日はカフェオレじゃねぇーのな」
「ありがとうございます。初めてこの家に来たとき、白石さんが淹れてくれたのココアだったの覚えてます?今日は初めてオレが一人でこの家に来た日だから、だからココアなんですよ」
ココアがいい理由がいまいち良く分からないままだが、幸せそうな顔をして笑っているからよしとしよう。
「あ、そういえば白石さんの誕生日いつか教えてください。オレ、白石さんのこともっと色々知りたいです」
煙草を吸う俺の横で、ステラを抱きしめたままの星はそう言って上目遣いで俺を見る。俺、星に誕生日とか話してなかったのか。
「んー、誕生日は3月19日、魚座でB型のオス」
「白石さん、3月生まれなんですね。B型のオスって、男の人なのは見ればわかりますけど……白石さんって名前に雪ってついてるから、オレ勝手に12月とか1月くらいなのかと思ってました」
「ああ、俺が産まれたとき3月なのにすげぇー大雪降ってたらしくてな。もう三人目だし、名前つけんの面倒くせぇーからって……親父が勝手に決めて、勝手に届け提出して、そんで俺は、雪夜になったらしい」
俺が暮らしている地域は、そこまで雪に悩まされることがない立地だ。そのため、3月に降る雪は比較的珍しいものだった。
……名前なんて、別にどーでもいいんだけど。
「白石さん、四人兄妹だって前に言ってましたもんね。ご兄妹のお名前は、何か意味があるんですか?」
星の名前には、しっかり意味がある。
名前に意味があると思うのが、普通なんだろうか。良い家族なんだろうと、星と光を見ているとなんとなくそう思うときがあるが。
……生憎、うちの家族は家族と呼べるような良いヤツらじゃねぇーからな。
「……とりあえず、長男が飛鳥(あすか)次男が遊馬(ゆうま)そんで妹が華(はな)だな。それぞれに意味があるかどうかなんて、俺は知らねぇーし、全く興味ねぇーよ」
……それに俺、アイツら嫌いだし。
声に出すことはしないが、心の中でそう呟いてしまった自分。過去を振り返りたくはないと、俺がそう思ってしまうのは……少なからずアイツらに、恨みがあるからなんだろう。
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