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第296話

「挽き肉と、玉ねぎと……」 明日の夜まで泊まりの星は、昼飯を作ってくれたあと、食材がないから買い物に行こうと言い出した。 今日の夕飯は、ハンバーグ。 一緒に作ると約束をし、今は近所のスーパーで買い物中。土曜の夕方……奥様連中で混雑する店内で、星はカートを押しながら楽しそうに食材を選んでいる。 ……なんつーか、おつかい頼まれた子供みてぇーだ。 そんなふうに思いながら、俺は少し離れてカートを押す星の後ろを歩いていく。 「雪夜さん、絹ごし豆腐とってください」 「ハンバーグに、豆腐入れんの?」 「母さんが作ってくれるレシピには、お豆腐が欠かせないんです。かさましにもなるし、ふわふわで美味しいんですよ。これね、兄ちゃんが一番好きなハンバーグなんです」 料理上手な母親か、羨ましい限りだ。 光が好きなハンバーグって、星はやっぱり兄としての光が好きなんだろう。 「んじゃ、今日のハンバーグは星ん家の味だな。ソースは、どーすんの?」 ハンバーグのソースは、種類が多い。 デミグラスソースにトマトソース、和風おろしとか、あとは煮込んでも美味いし。 星は少しの間腕を組んで考えると、俺を見つめて呟いた。 「……ホワイトソースにしませんか?」 正直、ソースは美味けりゃなんでもいいんだが……可愛い顔して、ホワイトソースって。 「星くんのエッチ」 「えっちじゃないです」 エッチなのは、俺か。 でも、光がいたら確実に俺と同じことを言いそうだ。ホワイトソースなんて聞いたら、白濁がどーたらこーたら吐かすぞ、あの金髪悪魔。 俺の言葉をさらっと否定し、星は乳製品売り場へスタスタと歩いていってしまった。牛乳を手に取り、どのバターにするか真剣に悩んでいる星。どうやら、ホワイトソースから手作りする気でいるらしい。 「ソース残ったら、明日の昼メシはグラタンにでもするか」 「じゃあ、マカロニも買ってかなきゃ。チーズはまだ残ってたから、マカロニ買ったら買い物終わりですね」 ……買い物終わりって、カゴん中すげぇーいっぱい食材入ってんだけど。 星が帰ったら、この量の食材を俺一人で処理することになるだろうから、今週は外食抜きで自炊確定だと思った。 会計を済ませ、食材を袋につめ込んで。 帰りの車の中で星は、俺が支払いをしたことを気にしていた。 「全部雪夜さんに出してもらってばっかりだから、今日はオレが払おうと思ったのに……」 星がレジ前でモゾモゾしていたことを、俺は知っている。結局何も言い出せなくて、俺が支払ってしまったが。払うつもりでいたから、自分から買い物に行こうと言い出したのか。 「いつも言ってんだろ、俺がしたくてやってるコトだって。星が気にするコトなんか、なんもねぇーから安心しろ」 「でも……」 「そんなに気になんなら、カラダで払ってくれてもかまわねぇーけど、どーする?」 「もう、雪夜さんのばか」 二人でいられる時間を、これからも大切にしていきたい。そんなふうに思えた、何気ない時間だった。

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