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第297話
「すげぇー美味いじゃん、このハンバーグ」
「良かったです。美味しいから雪夜さんと一緒に食べたいなぁって思って……二人で作ったから時間もそんなに掛からなかったし、楽しかったですね」
作り慣れているんだろう。
星は狭いキッチンでも、ハンバーグとホワイトソースをとても手際よく作り上げていた。
光と外食をすると、アイツの辛口コメントが目立つ理由がよく分かる。星が作る料理は、本当にどれも幸せな味がするから。
「二人で作ったってか……ほんの少し、手伝ったくらいな。俺、結局煙草咥えて見てただけだし。楽しかったっつーより、可愛いかった」
真剣な表情で。
けれど、料理が好きって純粋な気持ちが伝わってくる星の姿を見て……俺は、少しだけ羨ましいと心のどこかで思っていた。
いつの間にか諦めて、手放してしまった夢。
たった一つ、こんな俺でも興味があったこと。
俺には叶えなられない夢でも、真っ直ぐな星ならきっと、自分の夢を叶えていくんだろう。
「明日のグラタンも、一緒に作ってくれますか?あと、お風呂も一緒入りたいです」
隣にいる俺に、上目遣いで尋ねてくる星くん。こんな可愛い顔をしてお願いされたら、断るヤツなんていねぇーだろ。
「当たり前だ。明日も一緒に作ってやっから、コレ食い終わったら風呂入るか?」
「うん、ありがとうございます……じゃあ、洗い物はオレがするので、雪夜さんはご飯食べ終わったら、風呂の準備してくれますか?」
「ん、了解」
何でもできるって、星は俺のことを良くそう言うけれど。星もいろんなことを、俺にしてくれている気がする。
食事を終え、二人別々の作業をこなして。
「せーい、ちゃんと目瞑ってねぇーと泡入るぞ」
俺の声に反応し、星がぎゅっと目を瞑ったのを確認して。髪にまとわりつく泡を、俺はシャワーで洗い流していく。
……星の髪は妹の華と違って、長くねぇーから洗うの楽だな……って当たり前か、女じゃねぇーし。
妹の華がまだ小さかった頃、両親は仕事で忙しく、兄貴二人は好き勝手遊び呆けて家にいないことが多かったため、自動的に華のおもりをするのは俺の役目だった。
風呂に入れるのも、メシを食わすのも、寝かしつけも、遊んだりすんのも、華の相手をすんのは俺で……だからといって、世話好きなわけじゃないんだが。
「雪夜さん、とっても気持ちいい」
俺が星の髪を洗ってやると、星はとても気持ち良さそうな顔をして笑っていた。こんな表情を見せてくれる星だから、俺は色々としてやりたくなるのかもしれない。
「二人で入ると狭いけど、温かいですね。雪夜さんと一緒に入れて、嬉しいです」
恥じらいながらも、星は俺と一緒に風呂に入るのが好きらしい。別々に入ると俺が出てくるまでの時間、一人で待っているのが寂しいからと、この前も一緒に入りたいと俺は星に強請られたから。
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