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第298話

風呂から上がった星は、今度は俺のスウェットを着てソファーに座っていた。どんだけ好きなんだよ、俺の服……と思いつつも、俺は口には出さずに煙草の火を消した。 「星、そろそろ寝るぞ」 「……いや、です」 いつもなら確実に、俺より先に寝るのに。 星はイヤだと言いながら、重くなってきている瞼を必死に開けているように見える。 寂しそうな表情をして、俺を見つめる星。 明日は星が家に帰る日……帰るのは夜だが、眠ってしまったら一緒にいる時間がもったいない。星はきっと、そんなことを思ってまだ起きているつもりなのだろう。 俺たちが思っていた以上に、二人で過ごせる時間は短く、あっという間に過ぎていってしまう。遠距離なワケでもなんでもないが、離れるときのことを思うと、星は寂しくて仕方がないといった様子だった。 放っておいたらそのまま眠りに就いてしまいそうな星を抱き上げて、俺はベッドへと投げ捨てた。スプリングのいいベッドが、星のカラダを優しく受け止めてくれる。 「……うっ、びっくりするじゃないですか」 「とりあえず、ベッドに横になっとけ。寝るのがイヤな理由ちゃんと言ってみろ、聞いてやっから」 ぼふっとベッドに倒れ込んだ星を抱き寄せて、頭を撫でてやれば、星はもっとしてと甘えるように目を細めて笑う。 「明日になったら、雪夜さんとはまた会えなくなっちゃうでしょ……一緒にいられて幸せだって思うけど、離れるのはすごく寂しくて、それに……」 星はそこまで言うと、急に口ごもってしまった。寂しいのは俺が思っていた通りのようだが、まだ他にも理由があるらしい。 「それに、なんだよ?」 「あの……雪夜さん、今日まだ一度もオレにキスしてくれないから、まだ起きてたらしてくれるかなって」 「お前さ、すげぇー眠そうな顔してんのに、俺からのキスを待ってて寝ないっつってんのか?」 朝起きたときにはすでに、手を出したら止まらないと思い、今日はキスすることさえ抑えていたんだが。 ……キス待ちで起きてるって、コイツはどこまで俺を煽れば気が済むんだ。 「だって、寂しいじゃないですか。いつもしてくれるのに、今日は一度もしてくれないから」 ……ああ、もう。 朝から色々と、我慢していた俺の気持ちを返してくれ。 「星、キスしたら最後までヤるけど大丈夫か?」 コクリと頷き、俺を見つめる星。 何度求め合ってもきっと、冷めることのない互いの熱。 「んっ、はぁ…」 奪った唇は甘く、何度も重ね合っていけば二人の距離はなくなっていく。力が抜けていく星のカラダを抱きしめて、止まらない欲を感じながら、より深くお互いの吐息を絡ませ合った。 「んぁ、ゆきっ…やぁ、さんっ」 甘い星の声で、呼ばれた名前。 分かってはいたが、こんなにもそそられるものなのだと思い知る。 欲しがりで甘え上手な仔猫に煽られて、朝から保てていたハズの俺の理性はいとも容易く失われていった。

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