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第299話

「白石ぃー、そんなに仔猫ちゃんと過ごした週末が良かったワケ?」 「あ、なんで?」 星と過ごす時間はあっという間に過ぎていき、いつものように俺は康介と二人、駅前のカラオケ店で暇を潰している。 歌いたい気分ではないが、騒がしい康介を連れてカフェに行く気にはなれなかったため、俺は康介をカラオケボックスに閉じ込めた。 喫煙可能でドリンクバーがあり、騒いでも問題のない個室だが。 「なんでって、お前……顔、ニヤけすぎ。どんな週末過ごしたら、そんな顔できんだよっ?!」 やはり騒ぐ康介は、マイクなしでも充分にうるさい。これならバラードでも歌わせている方が大人しいのでは、と……そう思いつつも、俺は康介の問いに答えてやる。 「どんなって、別に普通。ただ一緒に買い物して、メシ作って、風呂入って、寝ただけ」 ……んなワケ、ねぇーけど。 結局あのあと、最後までコトに及んで。 次の日は一緒にグラタンを作って、帰りたくないとボヤく星を宥め、夜にはしっかり家に送り届けた。 合鍵を渡してはあるが、夏休みに入るまでのあいだ、来るつもりはないと言っていた星。きっと今頃、真面目に授業でも受けているんだろう。 頑張り屋の星に感心すると同時に、目の前の男に視線を移した俺は溜め息を零す。 「女とただ一緒にいるだけじゃ、俺はそんな顔できねぇ……ってか俺、白石みたいな顔の造りしてねぇや」 「何言ってんだ、お前」 「いくら俺がニヤけたところで、気持ち悪いだけだろ……そんくらいはな、バカな俺でも分かんだよっ!!」 頑張りどころがおかしい康介は、俺と自分を比べ、一人で落胆し、一人で吠えている。そんなバカに合わせるのが面倒な俺は、適当に返事をするため口を開いた。 「つまりは俺がかっこいいと、どーもアリガトウゴザス、こーすけクン」 「思ってねぇだろ」 「まぁーな、顔なんてどーでもいいだろ」 ……確かに、康介がニヤけてんのは気持ち悪いけどな。 「お前ってさ、本当に男の敵だよな。このあいだ押し倒されて実感したけど、白石ってただのイケメンじゃねぇもん……顔がいいだけじゃなくて雰囲気エロいし、あんなもん惚れねぇ女いねぇよ」 ただ遊びで押し倒しただけで、エロい雰囲気なんてなかったと思うんだが。俺はあのとき、腹を抱えて笑っていたし。 「仔猫以外興味ねぇーから、俺に寄ってきてもムダ」 テーブルに置いておいた煙草の箱を手に取り、スッと箱を上下させ一本出てきた煙草を咥える。 「興味なさそうな、そういうところも……どーにかして振り向かせかたくなるつっーか、なんつーか、ちょっぴり女心分かっちったもんね、俺」 「気持ちわりぃーコト吐かしてんじゃねぇーぞ、クソが」 ニンマリと笑う康介が気持ち悪い。 とりあえず康介にクソと吐き捨て、俺は煙草に火を点つけた。 「白石、その口の悪さどうにかなんねぇの?」 カシャンと音を立てジッポのフタを閉じた俺に、康介はアイスティーを飲みながらそう訊いてくる。 ……康介のクセに、似合わねぇー紅茶なんか飲むんじゃねぇーよ。

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