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第300話

「どーにかなってんだろーが、仕事中はちゃんとしてるし。時と場合と相手によりけりだけどな、それなりに気をつけて話してるつもり」 康介に敬語を使っていたら、それは逆に俺の頭がイカれていると思う。 「ああ、そういやそうか。白石ってオンオフ切り替え上手いよなぁ、接客中のお前って気怠さ全く感じねぇし、笑顔も爽やかだし……どちらにせよ、お前は男の敵ってことだ」 「どーでもいいわ、そんなもん。男の敵だろーが、なんだろーが、仔猫さえ俺の隣にいてくれんなら、俺はそれだけで充分」 口の悪さも、態度も、喫煙も。 どんな俺でも否定せずに、星は受け入れて側にいてくれる。そんな仔猫が俺を求めてくれるなら、周りの人間なんて眼中にないのは当たり前のことだ。 「俺もそんなふうに言ってみてぇよぉー、白石ぃー」 「言うのはタダだ、たとえ相手がいなくてもな」 「言えるワケねぇじゃんか……それこそ白石の思うツボだろ?俺が言ったらお前はまた、腹抱えて笑うに決まってらぁ」 「言ってみろよ、笑ってやっから」 吸い込んだ煙を吐き出して、右口角だけを上げて笑ってやる。そんな俺の表情に何故か恥ずかしそうに顔を背ける康介。 「その顔やめろっ!白石イジワルっ!!」 「意地悪も好きだろ、こーすけクンは優しくされるより無理矢理がイイんだもんな?」 「うるせぇっ!!」 「うるせぇーのはお前だ、康介。キャンキャン騒ぐ野郎はモテねぇーぞ」 俺が騒ぐヤツ、嫌いなだけだけど。 康介も、光も、ランも……俺の周りには、基本うるさいヤツしかいない。だから大人しいタイプの星といると、俺は落ち着くのか。 そう思い、俺は無駄に納得して。 「仔猫ちゃんといい週末過ごせたからって調子乗んなよっ!そのうちすっげぇ可愛い女抱いて、白石のこと見返してやるっ!!」 勝手に一人でヤル気になっている康介に苦笑いを漏らし、俺は煙草の煙を吐いていく。 ……ってか、調子乗ってねぇーし、俺は元からこんなだろーが。 「どーでもいいっつーの。お前がどんな女抱こうが、どんな女と付き合おうが、俺の知ったこっちゃねぇーよ」 「なぁーなぁー白石ぃー、仔猫ちゃんってどんなふうに可愛いんだ?可愛い女っつっても、色々あんだろ?」 自分に彼女がいない康介は、話題を俺の仔猫にすり替えた。星は女ではないんだが、可愛いことに変わりはないから。 「……ん、やるコト全部。俺ん家にいたときは、俺より先に起きて、勝手に俺のパーカー着て、朝メシ作ってた」 週末の出来事を思い返し、朝から愛らしかった星の姿を俺は康介に話してやった。 「何それっ?!すっげぇ可愛いってか、ちょー萌えんじゃんかっ!!仔猫ちゃん男心掴みすぎだろっ?!彼シャツで手料理とか、今すぐにでも嫁に欲しいっ!!」 彼シャツって、ただのパーカーだったが。 いくら可愛いといっても星は男だし、嫁になんて行けるワケないと俺は心の中で呟くけれど。 「お前にやるわけねぇーだろ、仔猫は俺のだ」

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