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第301話
康介も知っての通り、星は男を引き寄せる。
ショップの前で、康介が助けた可愛い男の子が星なのだ。そして、それが俺の仔猫なワケで。
康介の中で、星と仔猫が結びつくことはないけれど。星を康介なんかに奪われてたまるか、と……そんなふうに思いつつ、俺は煙草に口付ける。
すると、康介は俺にこんなことを言ってきた。
「白石、仔猫ちゃんに首輪つけといたら?お前の飼い猫的な感じでさ、俺ならそうでもしねぇと、そんな可愛いコ繋ぎ止めておけねぇわ」
「お前、バカじゃねぇーの。仔猫はあくまでも例え、人間に首輪つけてどーすんだ」
「……どーするって、そんなプレイすんだろ?」
真顔で俺を見つめる康介は、どうやら頭が沸いたらしい。
「お前AVの観すぎ、俺にそんな趣味ねぇーよ」
視覚的興奮を促すために、試行錯誤された映像コンテンツ。幅広いバリエーションで世の男性の癖に合うように作られた創作物を、現実の日常に落とし込むには無理がある。
だからこその女優であり、男優だ。
異論があるヤツもいるのかもしれないが、俺にはない趣味を押し付けられても困る。
けれど。
「白石にその気がなくても、仔猫ちゃんは喜ぶかもよ?他人の性癖なんて分かんねぇもんだし、一回ヤッたらハマるかもしんねぇじゃん」
「……いや、ねぇーわ」
俺ではなく仔猫はどうなんだ、と。
そう言いたげな康介の発言に、一度は考えてみたものの。飾り立てられた星の姿が想像できずに、俺は首を横に振った。
「猫耳カチューシャ、鈴つきの首輪、メイドのコスプレだったら最高だ!!俺だったら合掌する、そんでいっぱいエッチする」
「……キモイ、無理、そういうの」
「嘘だろ?!白石がどんだけイケメンでも、変態な性癖の一つや、二つや、三つ、絶対あるって!」
「なんでお前に、んなコト言われなきゃなんねぇーの。コスプレの趣味はねぇーし、玩具は論外、あとハードプレイも興味ねぇーよ」
相手が男で、使うのは後ろ……ってコトを除けば、あとはノーマルだ。なんて、康介に言えるワケがない。
「じゃあさ、白石は逆にどんなのがいいんだよ。強いて言えばコレっての、一つくらいはあんじゃねぇの?」
言えない事柄を隠す代わりに、何か一つくらいは伝えておいた方が無難だ。
「強いて言えば、か……プレイでもなんでもねぇーケド、一応、あるはある」
引き下がらない康介に俺がそう言うと、康介は期待の目で俺を見る。
「今すぐ教えろっ、白石ッ!!」
「んー……ゆっくり時間かけて、たっぷり可愛がってやって、向こうが理性すっ飛ばしたあと、泣きながら縋りつかれて、爪立てられんのはスキ。仔猫限定で、だけどな」
「……なんか、次元がちげぇや。俺、女の子そこまで満足させたコトねぇもん。もういいや、俺は歌うッ!!性欲なんてもんは、歌って発散してやるんだッ!!」
「ご自由にどーぞ、好きにしろ」
ただ、抱き合えるだけでいい。
繋ぎ止めるなら、この手でちゃんと抱きしめておきたい。もしも康介が言う首輪の役目を果たすのが、あのアンクレットだったとするのなら……今頃は星の左足首で、小さく揺れていることだろう。
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