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第304話

優さんが着物を着たら、確かに似合いそうだってオレは思った。でも、そんな優さんと仲が良い兄ちゃんは、アイスを食べながら一人で悪態を吐いていた。 今までずっと、オレは兄ちゃんが好きだったのに。年上で大人びて見えて、優しくてキラキラしていて。けれど、今の兄ちゃんは、案外子供っぽいのかなって思えるんだ。 雪夜さんと付き合う前までは、そんなふうに思わなかったけれど。今の兄ちゃんはお兄さんって感じじゃなくて、なんだか可愛らしい王子様だ。 雪夜さんが言うわがまま王子ってのも、間違いじゃないのかもしれない。 「せいは夏休み、ユキちゃんの家には行かないの?」 「うーん、とりあえず課題終わらせてからかな……お盆休みは稼ぎどきだから、雪夜さんは実家には帰らないって言ってたし」 実家に帰ることはなくても、バイト続きなるから、一緒にいられる時間は少ないんだろうけれど。 「そっかぁ……ユキちゃん実家近いから、帰ろうと思えばいつでも帰れるしね。うちはお盆休み、どうするか聞いてる?」 「ううん、聞いてない。でも今年は二人きりで旅行にでも行くんじゃないかな?」 「あー、せいも高校生になったことだし、今年は二人だけでのんびり旅行にでも行きたいわねって母さん言ってたっけ……どんだけ仲良いの、うちの親」 「仲良いことはいいこと、なんじゃないの?歳老いても仲良しって、両親だけど羨ましいもん」 父さんは仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰ってくるし、母さんもそんな父さんのためにちゃんとご飯を作って帰りを待っている。昔から、本当に仲良しなうちの両親。 オレも結婚したらこんな夫婦になりたいなって、そう思わせてくれるような両親なんだけれど。 「うちの夫婦は歳老いてもずっと、あのままだろうね。ユキちゃんじゃないけど、父さんは母さんのこと溺愛してるし」 「歳老いても一緒にいたいって、そんなふうに思えたらいいけど……この先、雪夜さんはどうしていくんだろう」 「お爺ちゃんになったユキちゃんとか、想像するだけで笑えるぅーっ!きっと、イケメンお爺ちゃんだよーっ!!」 兄ちゃんは想像した雪夜さんが面白かったのか、ケラケラと笑っている。 でも。 この先の将来を、雪夜さんはどうするつもりでいるんだろう。オレも雪夜さんもまだ学生で、将来のことなんて分からないことだらけだから。 ずっと今のような関係でいられる保証は、どこにもないんだ。いずれはお互いのことなんて忘れて、知らない人と結婚してしまうのかもしれない。 ……そんなの、嫌。 自分で考えたくせに、出てきた結論に溜め息が漏れてしまう。オレは、いつまでも雪夜さんと一緒にいたい……先の見えない未来より、とりあえず今を大切にしよう。 「……夏祭り、楽しみだね」 少しだけ心にできた不安をかき消すように、オレは兄ちゃんにそう伝えて薄く笑った。

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