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第305話

夏休みに入って、1週間が過ぎていた。 兄ちゃんも、両親もいない家で一人きり。 夏休みっていっても、外は暑いし出掛けたくないし……オレは今日も、朝から部屋に篭っている。 元々、外に出るのは苦手だから、オレは用事がない限り、なるべく家から出たくない派の人間だ。 雪夜さんには会いたいけれど、まだ課題が終わってないし……そう思い、数少なくなったプリントをオレは朝から少しずつ処理していた。 勉強も順調に進んで残りの課題もあと少しってところで、震えたオレのスマホに手を伸ばす。画面上に出てきた名前に、思わず頬が緩んでしまった。 赤と緑、二つある選択肢はオレにとってはないようなもの。もちろん緑の通話ボタンを押して、聞こえてくる声に耳をすませる。 『こーんちは、星くん』 優しくて、甘い声。 電話越しでも雪夜さんの気怠そうな雰囲気はそのままで、オレはとても安心しながら声をだす。 「こんにちは、雪夜さん」 『お前さ、今って何処で何してんの?』 「お家で夏休みの課題やってます。雪夜さんは、どうしたんですか?」 『バイト、康介とシフト変更して今日休みになったから。星が何処にも行く予定ねぇーなら、今から迎えに行こうかと思って』 まさかのお誘いに、心が躍る。 突然すぎて驚いてしまうけれど、オレに予定なんて何もない……ただ黙々と、勉強する以外には。 「予定はないです。お迎え、来てくれますか?オレも雪夜さんに会いたいです」 素直に会いたいと言ったオレに、スマホ越しの雪夜さんが少しだけ笑った気がした。 『そんじゃ、45分後にそっち着くようにしてやっから、それまでに課題終わらせて支度しとけ』 「分かりました、頑張ります」 『星くんいい子。そっち着いたら連絡入れる』 「はーい」 そう返事をし、名残惜しく電話を切って。 オレは急いで残りの課題をやり終えると、着ていた部屋着を脱ぎ捨てて支度を始めた。 雪夜さんは迎えに来るって言ってくれたけれど、そのあとの予定は訊いていなくて。一体、オレはどんな服装で行けばよいのやら……と、無駄に考えるよりも先に、オレは部屋のクローゼットを開けて、中をのぞき込んで見た。 けれど。 高校に入ってからは制服ばかり着ているオレが持っている服は、どれも子供っぽい感じが残ったままの服ばかりで。 制服のありがたさに感動しつつ、さすがに制服を着ていくわけにはいかないと、オレは溜め息を吐く。 大人な雰囲気の雪夜さんは、どんな服を着てても似合うけれど。そんな雪夜さんと釣り合うような服なんて持ち合わせていない。というより、服だけじゃなくてオレそのものが釣り合ってないような気がする。 勉強するために上げてしまった前髪は、くせがついたままなかなか元通りになってくれないし。着ていく服も決まらない。 「……どうしよう」 そう時計を見て呟いては、アタフタしてを一人で繰り返し、雪夜さんがくれた45分という時間は、あっという間に過ぎていった。

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