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第307話

「あの、嵌められたってどういうことですか?」 兄ちゃんはともかく、優さんがそんなことするようには思えないけれど。今回は、どうやら優さんも共犯者としてリスト入りしているらしい。 「俺は優から星が光に強制連行されるけど、お前はどうするって言われたんだよ。そりゃ、星が行くなら行くっつーだろ」 「強制連行……でもオレ、雪夜さんと一緒ならお祭り楽しみです。浴衣着るのは、ちょっぴり恥ずかしいですけど」 「そんなもん、俺もそうだけど……ちょっと休憩してくか、せっかくここまで来たしな」 そう言われて、辿り着いたのは港の前の大きな公園だった。公園の駐車場に車を駐めた雪夜さんは、日差しが眩しいのか目を細めていて。そんな雪夜さんの後ろをオレが歩いていると、可愛らしいピンク色をした移動販売のアイスクリーム屋さんを発見したから。 思わず駆け寄っていきそうになったオレの腕を、雪夜さんはぐっと掴んで引き止める。 「星、気になるなら買ってやっから。駐車場で走ろうとすんな、死ぬぞ」 「ちゃんと車が来てないことくらい、オレも確認してますよ?」 「星が見えてても、車からじゃ見えねぇーコトがあんの。お前、危なっかしいんだよ……いくら移動販売だからって、そんなすぐどっか行きやしねぇーだろ」 掴んだ腕をそっと離してくれた雪夜さんは、苦笑いでそう言ってオレを見る。 オレは……雪夜さんから見て、とても子供なのかもしれない。やっぱり、オレと雪夜さんは釣り合っていないんだと実感した。 そんなふうに感じていたオレに、とどめを刺したのはアイスクリーム屋さんの若いお姉さんで。 「……兄弟、かな?弟君可愛いし、お兄さんとっても素敵っ!特別に、おまけしてあげるねっ!」 そう、言われてしまった。 雪夜さんは仕事中にする、営業スマイルでお姉さんに微笑んでいて。おまけは嬉しかったけれど、オレは素直に喜べなかった。 木陰にあるベンチに二人で腰掛けて、雪夜さんに買ってもらったアイスクリームを手に持って。そうして、オレはぼんやりと考えごとをしてしまう。 でも。 「……あっ!ちょっとっ!!」 「買ったの俺だし、少しくらいイイだろ?」 オレからアイスクリームを奪い取り、ニヤリと笑った雪夜さんはパクッとひとくち……より多く、アイスを食べてしまった。 「少し……って、いっぱい食べてるじゃないですかっ!欲しいなら欲しいって、先に言わなきゃだめですっ!」 くだらない考えごとをしていたオレが、悪いんだけれども。雪夜さんといると、子供な自分が嫌で嫌でたまらなくて。 「……ったく、しょうがねぇーなぁ。そんじゃあ、星くん……お前のコト、今すぐ喰いてぇーからちょーだい」 「いや、え、ムリですよっ?!」 それなのに。 目の前にいる雪夜さんは、優しい顔をして笑うんだ。 「なんてな、こんなとこで喰ったりしねぇーから安心しろ。何考えてんだか知らねぇーけど、らしくない顔してんなよ」

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