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第310話
【雪夜side】
俺の手に、そっと触れた星の手は温かくて。
星は何も言わずに、微笑んでくれていた。俺はその優しさに甘えて、無言で星の肩に頭を預けてしまう。
「雪夜、さん?」
「……このままで、いさせて」
自分は子供だと、星は俺に言ってきたが。
子供なのは、どっちだ……純粋で真っ直ぐな星に支えられている俺は、大人になりきれていない子供だ。
諦めた夢に、触れられるのが怖い。
取り戻したい過去に、縛られている自分が憎い。
星と一緒にいられるなら、それだけで充分だと。そう思う気持ちは嘘じゃない、ただ……俺の興味を引くモノは、そう簡単に心の中から消えてはくれなかった。
自分の夢を追いかけようとしている星に、俺みたいな中途半端なヤツが側にいることなんて、許されるんだろうか。
釣り合わない。
それは見た目の問題ではなくて、心の問題。
それでも、俺はコイツと生きていくって決めたから。
できることなら、俺の全てを奪い去ってほしい。どんな星でも、受け止めてやるから……だから、こんな俺でも愛してほしい。
なんて。
格好がつかない俺を、星はどんなふうに見たら良く思えるのか俺には理解できないけれど。
「……雪夜さん」
俺の髪に指を絡めて遊んでいた星が、小さく俺の名前を呼び、握っていた手に力を込めた。
「ん……星、愛してる」
そう呟きゆっくりと顔を上げてみれば、真っ赤になりながら恥ずかしそうに笑う星がいて。
「あ、えっと……なんで分かっちゃうんですか?オレが言ってほしいなぁって、思ったこと」
「なんでって言われても分かんねぇーけど、そんな気がしたから。お前になら、いくらでも言ってやるよ」
そう囁いた俺はいつも通りの表情で笑い、目の前にある星の耳に口付ける。ぴくんと反応した星の小さなカラダを抱き寄せて、星が望む言葉を告げた。
「せーい、愛してんぞ」
「ん……オレもっ、愛してます」
広い公園の木陰に隠れるようにして、見つ合った俺たちは甘いキスに酔いしれる。触れるだけ、重ね合うだけ……これ以上したら本気で星に怒られると、そう思うギリギリまで、俺は唇を離すことができなかった。
「……ここ、外っ!」
赤くなった顔を、更に染め上げる星。
濡れた唇を親指で拭って、軽く頭を撫でてやる。
「いつも言うけど、誰も俺たちのコトなんか見てねぇーっつーの。それより、アレ……どう見ても積乱雲だろ。数分後には雨降ってくっから、さっさと車戻るぞ」
「雪夜さんとなら、またずぶ濡れになってもいいですよ。上着のシャツ……ちゃんと被せてくれるなら、ですけど」
何時だったか、雨に襲われたあの日のことを思い出し、二人で笑い合う。
「バカ、帰せなくなんだろーが」
少しずつ、でも確かに歩みをともにし始めた俺たちはお互いにまだ子供で。離れないよう握った手は、あのときと変わらないまましっかりと繋がれていた。
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