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第316話

「兄ちゃんって、やっぱり優さんといるときが一番楽しそうですね」 俺を見上げて、星は小さくそう呟いた。 この仔猫はまだ、光と優の関係性を知らない。けれど、バレるのも時間の問題だと……今日の悪魔たちの戯れ合いを見て、俺は確信した。 「兄ちゃん、すっごく綺麗です」 「黙ってりゃな」 光から順番にそれぞれ浴衣を着付けてもらい、見慣れない格好になった俺たち。優に言われた通り、すっかり大人しくなった光を見て、俺と星は感心していた。 大人しくしておけば、光は本当にキレイないい男だと思う。今はまさにその状態……さっきまで一人で騒いで、グルグルと子供みたいに回っていた男とは思えない。 優の着付け方がいいのか、少しだけ緩められた衿元が妖艶さを纏う光によく似合っている。 「……優、どう?」 切れ長の瞳が、流し目で優を見て笑う。 この金髪悪魔は、そこら辺に転がっている女よりも、色気があると思う。光に好意を持っていない俺が見ても思うのだから、優からしてみれば光の浴衣姿は申し分ないだろうに。 「光、よくお似合いだ」 「それだけ?」 「他に、ナニを求めているんだ。大人しく、夜まで待ってておくれ……とても綺麗だ、王子様」 ……星に隠す気ないだろ、コイツら。 惚気る友人二人はどうでもいいとして、俺は着慣れない浴衣に違和感しかないのだが。 「優、この帯の位置ってどうにかなんねぇーの?」 「お前は脚が長いから、腰の位置が高いんだよ。基本は腰骨に合わせて着付けるが、それだとバランスが悪くてな。雪夜はそれくらいの位置で締めておくのが、一番似合うぞ」 「雪夜さん、とってもかっこいいです」 「……浴衣姿だと、気怠い男が更に気怠るくなったがな。我ながら、なかなかに粋な着付けができたさ」 「粋というより、ユキちゃんはセクシーな感じだよね。着慣れてるのは優だから悔しいけど、やっぱり優は和服がよく似合う」 光にそう言われ、少しだけ笑顔を見せた優。 確かに優は、きっちりとした印象だった。無地でグレーの落ち着いた浴衣を着るこの男は、色々通り越してもうオッサンなんじゃないかと思うが。 「せいは可愛いねぇー、抱きしめたくなっちゃう。ユキちゃんなんて、さっきから顔緩みっぱなしだよ?」 動きは大人しくなったものの、騒がしいのは変わらないらしい。人のことを言う前に、弟を見てニヤけている光のほうが問題だと思った。 「いや、お前も星の浴衣姿見てニヤけんじゃねぇーかよ……ってか、こんな可愛い姿見たら誰だってニヤけんだろ」 「星君の帯だけ兵児帯で着付けてあるから、愛らしく仕上がったな」 「あの、恥ずかしいからやめてください」 麻の葉柄の浴衣を、優に着付けてもらった星。 浴衣の袖をきゅっと握って、顔を赤くし恥ずかしそうに俯く星は本当に愛らしい。 黒い髪に、白い肌……浴衣の衿元から見える、艶めかしいにうなじにそそられる。 布一枚で隠された、小さなカラダ。 着付けてもらったばかりだが、今すぐにでも脱がしたくなるのは男の性ってやつなのだろう。

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