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第318話

身体が熱く感じるのは、真夏の太陽のせい……だけじゃない。 「星君、大丈夫か?電車移動で、疲れてしまったかい?」 ボーっと放心状態のオレに、改札口を通り抜けた優さんが心配そうに声を掛けてくれた。 「……大丈夫、です」 「せいは人混み苦手だしね、俺もこんなに人多いとは思ってなかった……浴衣だからいつもよりは涼しく感じるけど、とりあえず、かき氷食べたい」 みなと祭りはこの辺りでも、規模の大きなお祭りの一つ。駅を出てみれば、たくさんの露店がズラリと並んでいて。夜には、花火も見ることができるんだけれど……とにかく人が多すぎて、オレは少し歩いただけで迷子になってしまいそうだった。 かき氷目当てで歩く兄ちゃんの隣には優さん、その後ろをオレと雪夜さんで歩いていく。 ……あ、りんご飴だ。 チョコバナナも美味しそうだし、綿菓子も食べたいし、飴細工も気になる。 並ぶ露店に惹かれて、オレはキョロキョロと余所見をする。周りには人がいっぱいで、オレからは露店の看板くらいしか見えないけれど。 焦げたソースやお醤油の香りが色々な露店から漂ってきて、オレはすっかりお祭りの雰囲気にのまれていた。 人が多いのは苦手だけど、やっぱりお祭りってワクワクしちゃうから。 「星、あんま余所見ばっかしてっと、迷子になんだろ……ほら、袖でも掴んどけ」 歩く速度がゆっくりなオレに、雪夜さんは苦笑いでそう言ってくれた。 でも。 「……あ、もう掴んでます」 オレは雪夜さんに言われる前から、逸れないようにと雪夜さんの浴衣の袖をきゅっと小さく握って歩いていた。そんなオレに雪夜さんは、ふわりと優しい笑顔で微笑んでくれる。 「お前いい子だな、そのまま俺から離れんなよ」 電車の中で、人のことをからかって意地悪な顔で笑っていた人だとは思えなくなってきてしまう。 結ばれた栗色の髪に、触れていたい。 今はまだそんなことはできないけれど、繋ぐことができない手は浴衣の袖を強く握って、離れることのないように歩いていく。 「あ、あった!かき氷っ!」 嬉しそうな兄ちゃんの声に、お店の前で足を止めたオレたち。 「星は、かき氷食うの?」 「食べたいです」 兄ちゃんだけじゃなくて、当たり前のように訊いてくれた雪夜さんの優しさが嬉しい。 「優、俺はイチゴに練乳かけてもらって。せいは、ブルーハワイでしょ?」 「うん、いいですか?」 「いいけど、意外だな。お前イチゴって感じすんのに」 「昔から、ブルーハワイの綺麗な色に惑わされるんです。でも、味はいまいち何の味だかよく分かんないんですけどね」 「ん、なら優と二人で買ってくる。絶対にそっから動くなよ、お前ら兄弟ほっとくとどっか行きそうだから」 「そんなに心配なら、俺が買ってくる。雪夜は星君と一緒に待っててくれ、ついでで構わないから、うちの王子様を見張っておいてほしい」 大人な二人から、こんなに心配されるオレたち兄弟ってどうなんだろう。

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