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第319話
優さんに買ってもらったかき氷を、オレと雪夜さんで分け合って食べて。兄ちゃんは優さんに一口も分けることなく嬉しそうにかき氷を頬張っていた。優さんはそんな兄ちゃんの姿を見て、幸せそうに笑っている。
なんだかんだと四人でワイワイ騒ぎながら、色んな露店を見て回るのはとても楽しくて。
「雪夜さん、りんご飴食べたいです」
「優、金魚っ!金魚欲しいッ!」
「花火まで見ていくのだろう?そんな時間まで金魚を持ち歩いていたら、死んでしまうぞ」
「俺イカ焼き食いてぇー、星のりんご飴はちゃんと買ってやっから待っててな」
「ありがとうございます、雪夜さん」
ポンポンと、俺の頭に触れる大きな手。
優しく笑ってくれる雪夜さんに、オレはぺこりとお辞儀する。
「んー、じゃあ金魚がダメなら射的してよ?ユキちゃんと優で勝負して、景品の数が少ない方が四人分の焼きそば奢りね?」
「なんで、俺もやらなきゃなんねぇーんだ」
「雪夜、俺に負けるのが怖いのか?」
眼鏡をクイッと上げて、雪夜さんをチラリと見る優さん。
「調子のんなよ、クソ執事」
目と目が合って、火花が散る。
オレは少しだけ、睨み合った二人が怖かった。
「ハイ、決まりー!!それじゃ、お二人さんっ!張り切ってどーぞ!!」
優さんと雪夜さんの背中をポンと叩いて、兄ちゃんは笑顔で射的屋さんの前に立つ二人の姿を眺めている。射的屋さんのおじさんにそれぞれお金を渡して、小さなコルク玉を三つずつ受け取った二人。
「星、景品どれ欲しい?」
雪夜さんは振り返ると、オレにそう訊いてくれた。並んでいる景品は色んな物があるけれど、オレが最初に選んだのはボールチェーンが付いたウサギのぬいぐるみ。
「んーと、あの二段目のウサギさんがいいです」
「ん、分かった」
軽く頷いてくれた雪夜さんは、手のひらサイズのぬいぐるみに狙いを定めて最初の一発を撃ち当てた。
綺麗に命中した、コルク玉。
ぽとりと、棚から落ちていくウサギのぬいぐるみ。
「え、ウソ、雪夜さんすごいっ!!」
「さすがユキちゃん、このくらい朝飯前だね」
「星、次に欲しいの考えとけよ?」
「光はどれにするんだ?」
まだ狙う物が定まらない優さんが兄ちゃんにそう訊くと、兄ちゃんは一番上の棚を指差しクスリと笑って優さんを見る。
「一番上の段にある、大きな将棋の駒が欲しいなぁ」
兄ちゃんはどうやら、優さんに勝たせる気がないらしい。オレも雪夜さんも、兄ちゃんの欲しい物に思わず笑ってしまった。
「勝負、ついたんじゃねぇーの?」
「まだ一発も撃ってないのだから、どうなるかは分からないだろう」
余裕そうな笑みを浮かべる雪夜さんと、兄ちゃんに言われた通り、大きな将棋の駒を狙い定めた優さん。いつも大人な雰囲気の二人が、今はとっても幼く見えた。
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