320 / 575

第320話

優さんが撃った玉は将棋の駒に命中したものの、駒が落ちるどころか動くことさえなかった。 「的がデカすぎて、撃っても落ちねぇーよ」 「優、あと二回で落とせなかったら奢りだよ?狙う景品、変えちゃダメだからね」 「星は、次欲しいの決まったか?」 雪夜さんにそう言われて、オレはウサギの隣にあったライオンのぬいぐるみを指差した。 「的は小さいけど、当たれば確実に落ちるね。ユキちゃんならゲットしてくれるよ」 「兄ちゃんは、優さんを勝たせてあげる気ないの?」 「あるワケないでしょ、将棋の駒なんていらないし。それを分かってても俺の言うこと聞いて、真剣な顔して狙い定めてる優を見るのが面白いの」 「……性格悪い」 俺が小さく呟いたのと同時に、雪夜さんが撃った玉がライオンに当たりぽとりと落ちる。 「お兄ちゃん上手いねぇ、なかなかの腕前だ」 射的屋さんのおじさんは、雪夜さんにそう言いながら落ちた景品を手渡していた。 雪夜さんが撃った直ぐあとに、優さんがもう一度将棋の駒に命中させていたけれど、やっぱり落ちることはなくて。 「勝負あったな、景品の数は俺の勝ち。奢りは優で決定……けど、勝った気しねぇーから玉一つやる」 雪夜さんはまだ一つだけ残るコルク玉を優さんに差し出すと、落とした景品二つを俺に手渡してくれた。 「雪夜さん、とっても上手ですね。オレ、びっくりしちゃいました。ありがとうございます」 「ん、別に礼を言われることでもねぇーよ。それより、なんでウサギとライオンなワケ?」 「ウサギさんは、単純に欲しかったんですけど。ウサギさんが落ちたあと、隣のライオンさんの目が寂しそうに見えたから……ライオンさんも、一緒がよかったのかなって思って」 オレの手の中で、二つのぬいぐるみは寄り添うように重なり合っている。なんだかとても幸せそうな、二つのぬいぐるみ。 「そう見えたのは、ただの光の加減だろ……まぁ、お前が欲しかったならそれでいいけど」 「雪夜さんも奢りじゃなくて、よかったですね。でも、優さんは可哀想」 「俺に勝負吹っかけてきたのは、アイツだからいいんじゃねぇーの。バカ王子も満足そうだし、あの二人はアレでいいんだよ」 雪夜さんから貰った玉を使って、優さんは最後まで誰もいらない将棋の駒を狙っていた。そんな優さんの姿を兄ちゃんは楽しそうに見つめていて。 「兄ちゃんって、性格悪いです」 「今更、何言ってんだ。光はわがまま王子だって、俺が前から言ってんだろ……星くん、やっと気付いた?」 「オレの前では、それなりに優しい兄ちゃんですから……でも、優さんは嫌じゃないんでしょうか?」 「イヤなら、中坊んときから一緒にいねぇーよ。光が好きだから、優はいつだって光のために必死になれんの」 好きだから。 その好きには、どんな意味が込められているんだろう。兄ちゃんと優さんって、まさか……ね。

ともだちにシェアしよう!