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第320話
優さんが撃った玉は将棋の駒に命中したものの、駒が落ちるどころか動くことさえなかった。
「的がデカすぎて、撃っても落ちねぇーよ」
「優、あと二回で落とせなかったら奢りだよ?狙う景品、変えちゃダメだからね」
「星は、次欲しいの決まったか?」
雪夜さんにそう言われて、オレはウサギの隣にあったライオンのぬいぐるみを指差した。
「的は小さいけど、当たれば確実に落ちるね。ユキちゃんならゲットしてくれるよ」
「兄ちゃんは、優さんを勝たせてあげる気ないの?」
「あるワケないでしょ、将棋の駒なんていらないし。それを分かってても俺の言うこと聞いて、真剣な顔して狙い定めてる優を見るのが面白いの」
「……性格悪い」
俺が小さく呟いたのと同時に、雪夜さんが撃った玉がライオンに当たりぽとりと落ちる。
「お兄ちゃん上手いねぇ、なかなかの腕前だ」
射的屋さんのおじさんは、雪夜さんにそう言いながら落ちた景品を手渡していた。
雪夜さんが撃った直ぐあとに、優さんがもう一度将棋の駒に命中させていたけれど、やっぱり落ちることはなくて。
「勝負あったな、景品の数は俺の勝ち。奢りは優で決定……けど、勝った気しねぇーから玉一つやる」
雪夜さんはまだ一つだけ残るコルク玉を優さんに差し出すと、落とした景品二つを俺に手渡してくれた。
「雪夜さん、とっても上手ですね。オレ、びっくりしちゃいました。ありがとうございます」
「ん、別に礼を言われることでもねぇーよ。それより、なんでウサギとライオンなワケ?」
「ウサギさんは、単純に欲しかったんですけど。ウサギさんが落ちたあと、隣のライオンさんの目が寂しそうに見えたから……ライオンさんも、一緒がよかったのかなって思って」
オレの手の中で、二つのぬいぐるみは寄り添うように重なり合っている。なんだかとても幸せそうな、二つのぬいぐるみ。
「そう見えたのは、ただの光の加減だろ……まぁ、お前が欲しかったならそれでいいけど」
「雪夜さんも奢りじゃなくて、よかったですね。でも、優さんは可哀想」
「俺に勝負吹っかけてきたのは、アイツだからいいんじゃねぇーの。バカ王子も満足そうだし、あの二人はアレでいいんだよ」
雪夜さんから貰った玉を使って、優さんは最後まで誰もいらない将棋の駒を狙っていた。そんな優さんの姿を兄ちゃんは楽しそうに見つめていて。
「兄ちゃんって、性格悪いです」
「今更、何言ってんだ。光はわがまま王子だって、俺が前から言ってんだろ……星くん、やっと気付いた?」
「オレの前では、それなりに優しい兄ちゃんですから……でも、優さんは嫌じゃないんでしょうか?」
「イヤなら、中坊んときから一緒にいねぇーよ。光が好きだから、優はいつだって光のために必死になれんの」
好きだから。
その好きには、どんな意味が込められているんだろう。兄ちゃんと優さんって、まさか……ね。
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