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第321話
ぐるぐると歩き回って、露店で色んな物を購入して。夜の花火を見るために、オレたちは優さんお勧めの場所で、露店で買い込んだ物を食べながら花火までの時間を過ごしている。
「ここなら人もいないし、花火も綺麗に見えそうですね」
「人混みばかりだと、皆が疲れてしまうからな。花火までまだ時間はあるから、禁煙できる場所のほうが雪夜も気が楽かと」
「さすが執事、気が利く」
優さんが連れてきてくれた場所は露店が並ぶ駅前から少し離れた河川敷。日陰もあって、ベンチもあって、とても過ごしやすい場所だった。
「優、ラムネとって」
「どうぞ、王子様」
「星くん、それちょーだい」
「じゃあ、半ぶっこしましょ?オレも、雪夜さんが食べてるやつ食べたいです」
オレと雪夜さんは二人で色んな食べ物を分け合って食べて、兄ちゃんと優さんは、兄ちゃんだけが優さんから分けてもらっていた。
「光、少しは執事にも分けてやんねぇーと、優が拗ねるぞ」
「ユキちゃんバカなの?こんなことで、優が拗ねるわけないじゃん」
「子供、じゃないからな……こんなことで拗ねはしないが、今日は少しだけ雪夜たちが羨ましく思えるよ」
優さんの言葉は、きっと本心だと思う。
ランさんのお店で初めて優さんと兄ちゃんを見たとき、オレも似たような気持ちになったから。
「兄ちゃん、優さんにもちゃんと優しくしてあげて」
兄ちゃんの態度に思わずそう口にしたオレの頭を、雪夜さんはぽんぽんと撫でてくれる。兄ちゃんはそんなオレたちを見てニヤリと笑い、空になったラムネ瓶を向けてきた。
「じゃあさ、せいがユキに自分からキスしてって、俺たちの前で強請ってくれるんなら、優に分けてあげてもいいよ」
……なんで、そうなるの。
「もうっ!兄ちゃん本当に性格悪いッ!!優さんに全部奢ってもらっといて、どうしてそんな態度でいられるのっ?!」
怒ったオレを見て、兄ちゃんは冷たい視線で言い放つ。
「なんでって、優しくする必要がないから」
……そんなの、嘘じゃん。
オレは、兄ちゃんと優さんがどんな仲なのかよく知らないけれど。でも、優さんと一緒にいる兄ちゃんは、一番幸せそうに笑っている。
優さんが兄ちゃんにとって大切な人だって、それくらい子供なオレでも分かるんだ。
大切な人なら、大事にしてあげてほしい。
優さんがいつまでも、兄ちゃんの側にいてくれる保証はないんだから。
「それじゃあ、優さんが可哀想じゃんっ!!いくら仲良しでも、ちゃんと感謝しないと優さんそのうちどっか行っちゃうよっ?!」
これはきっと、オレが雪夜さんに抱いた思いと一緒だ。いつかは、オレから離れてしまうのかもしれないって……将来のことに、保証はないから。
兄ちゃんのことなのに、どうしてこんなに口を挟んでしまったのか。その理由はきっと、オレが感じている見えない不安と今がリンクしたからで。
オレの言葉に切れ長の瞳が切なそうに揺れて、視線を逸らした兄ちゃんは何も答えてはくれなかった。
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