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第322話

雪夜さんに、ぐっと掴まれたオレの手首。 オレを兄ちゃんの方からくるっと向きを変えさせた雪夜さんは、自分の胸の中にすっぽりとオレを抱え込む。 「星、落ち着け。光、そろそろちゃんと話してやれ。星も子供じゃねぇーんだ、ある程度はコイツも勘づいてきてるし、そのための今日なんだろ」 「ユキ……」 「雪夜、すまない」 「星には俺がいる。二人とも話すつもりがあんなら話してやって、そのほうがコイツも納得できる」 雪夜さんの優しい声が聞こえて、顔を上げたオレを抱きしめてくれる雪夜さん。今のオレからは兄ちゃんと優さんの顔は見えずに、三人の話す声だけが聞こえてきていた。 「星君……光は俺にとって、とても大事な人なんだ。星君にとっての、雪夜みたいなものなんだよ」 オレにとっての雪夜さんってことは……じゃあ、オレがさっき、まさかと思ったことは本当だったってことになるけれど。 「せい、優は俺の……大切な人」 ゆっくりと、でも確かに聞こえてきた兄ちゃんの声は、少しだけ震えているように感じて。 「大切な人だけど、大切な人だから、俺は優に優しくしない。俺が人に優しくするのは、ただの偽善だから。偽るコトのないそのままの俺を、俺のすべてを受け入れてくれる優が好きなの」 「星君、俺と光は……」 「オレと、雪夜さんと一緒」 小さくそう呟いたオレの頭を、雪夜さんはよしよしと撫でてくれる。 「……驚いた?」 「うん……でも、知れてよかったです」 色々と思うことはあるけれど、でも兄ちゃんと優さんはお互いに思い合える関係なんだって……オレに話してくれたことは、素直に嬉しい。 でも。 何も知らないオレが口をだしちゃいけなかったことに、オレは反省してしまった。 「雪夜さん、オレ、兄ちゃんに謝んなきゃ……」 そう思い、振り返ろうとしたオレを雪夜さんはぎゅっと抱きしめてくる。 「謝んのも、振り返んのも、まだ待っててやって……星、愛してる」 耳元で囁かれて、身体の力が抜けてしまう。 オレは雪夜さんが大好きから、こんなふうに抱きしめてもらえるだけで、とっても安心する。 安心したら、切なくなって。 兄ちゃんと優さんのことを思うと、胸が痛くなった。 「……雪夜、さん」 「星くん、なんでお前が泣いてんだよ」 「だって……」 なぜだか溢れてくる涙を、雪夜さんは優しく笑って指で拭ってくれる。 兄ちゃんと優さんが話す声は聞こえてこないけど、その代わりに小さく啜り泣く声がして。オレが振り返ることを雪夜さんから拒まれた理由が、分かった気がした。 人のいない河川敷。 少しずつ薄暗くなっていく周りの景色と、みなとから吹き抜ける風が切なさを誘う。 動揺、していないわけじゃないけれど。 でも、オレと雪夜さんの関係を兄ちゃんと優さんが受け入れてくれたように、オレも兄ちゃんと優さんの関係をちゃんと受け入れようって思ったんだ。

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