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第323話
【雪夜side】
星からは見えない、光と優の姿。
唇を噛み、俺から視線を逸らした金髪悪魔の瞳から、涙が流れ落ちるその前に、優の手が光の目元を覆った。
二人の関係を、なんとなく勘づき始めた星。
本当は口を挟むつもりなんてなかったけれど、やたらと光に噛みつく星を見ていたら、勝手に口が動いていた。
二人のカミングアウトが、これで良かったのかは不明だが。俺に抱きしめられながら、キレイな涙を流す星には、これで良かったんだと思う。
光と優がどうなろうが、正直俺には関係ない。
でも、人のために涙を流せる星は、コイツは違うだろうから。
きっと、星は俺を包み込んでくれるように、光のことも受け入れていくんだろう。
お互いホッとし、微笑み合う光と優。
あの二人は、あれでいい……コイツがそれを理解すれば、二人の関係に口を挟むこともなくなる。
その証拠に光に謝りたいと言った星は、いつもの顔で笑った光に深く頭を下げていた。俺はそんな三人の様子を見守りながらも、煙草を咥える。
「……なんか、色々ごめんなさい」
「星君、謝るのは俺たちのほうだ。すまなかった……それと、ありがとう」
ぺこりと頭を下げた星に、優は感謝の言葉を述べる。それなりに、この二人は穏やかで、波長が似ているのかもしれない……と、笑い合う二人を見て、俺はそんなふうに思った。
「優さん……オレ、色々と余計なことを言っちゃったけど、兄ちゃんと優さんには幸せになってほしいです」
「今でも充分、幸せだから大丈夫……せい、ありがと」
光はそう言って笑うと、星を抱きしめた。
浴衣が白く、髪が金色だからか、まるで天使のような装いの光。普段は悪魔だが、今だけは素直に天使だと比喩ってやろうと思う。
揺らぐ紫煙の奥に、微笑ましい光景がある。
それだけで充分だと、そう感じているのは俺だけではないはずだ。
「……そろそろ、花火始まんぞ」
ゆったりと吸っていた煙草の火を消し、光に抱きしめられている星を取り戻して。声を掛けた俺に、光は口角を上げて微笑んでくる。
「ユキちゃん、今日だけ特別に、ありがとうって言ってあげようか?」
相変わらず、素直さの欠片もない光。
けれど、光らしい言葉だと俺は受け取ることにして。
「俺にはいらねぇーから、コイツにたくさん言ってやって。感謝するなら俺より星に、だろ」
「雪夜さん……」
艶のある黒髪を撫でてやり、俺が目を細めて笑ってやると。素直で純粋な星は、顔を赤く染めながら俺を見て微笑んで。
「ありがとうございます」
と、小さく呟いてきたから。
浴衣姿も相まって、可愛さと色っぽさが際立つ星に俺は心を奪われたけれど。
「雪夜、顔が気持ち悪い」
「ユキちゃんってば、せいにデレデレなんだから」
「うるせぇーよ、お前らだっていつも好き勝手ヤってんじゃねぇーか」
「……あの、恥ずかしいです」
恥ずかしがる星の手を、そっと握って。
いつもの空気感に戻った俺たち四人を照らしたのは、暗くなった夜空に打ち上げられた大きな花火の輝きだった。
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