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第325話
「雪夜さんはいいんですか?ラストのいっぱい打ち上がる花火のほうが、迫力もあってキレイなのに」
「そう思うなら、最後まで見てても俺は構わねぇーよ。お前が好きなほうを選べばいい」
「いや、あの……雪夜さんと見る花火は、すごく綺麗で幸せなんですけど」
ドンと打ち上がる花火の音に、かき消されそうになる星の声。煙草を吸う俺の耳元まで近づいて星が言った言葉に、自然とニヤけてしまう口元。
「……オレも早く、雪夜さんと二人きりになりたいです」
そう俺に囁き俯いた星の頭を撫でて、俺は隣のベンチで花火を眺めている光と優に声を掛けるため、煙草の火を消した。
「ユキちゃんたち、もう帰るの?ラストが一番キレイなのに、もったいない」
「最後まで見てくと、電車ヤバいことになんだろ。星くん人混みで死んじまうから、俺たち先に帰るわ」
「お疲れのところ、悪かったな。雪夜、車はどうするんだ?寺に置いていくなら、それでも構わないぞ」
「星連れてそのまま家帰るから、車は明日の夜にでも取りに行く。浴衣も、明日返す」
何か言いたげな光に、優は首を横に振ると俺たちに向けてこう言った。
「気をつけて帰ってくれ、星くんも雪夜も今日は色々とありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「ユキちゃん、またね。せい、母さんには俺から適当に話しておくから、ユキちゃんとの時間楽しんで」
「兄ちゃん、ありがと」
「じゃあな」
まだ次々と打ち上がる花火に背を向けて、俺は星を連れて河川敷を後にした。
駅まで星の歩幅に合わせてゆっくりと歩いていき、まだそう人が多くない電車に乗り込んで。空いてる席に座った星の隣に、俺は腰掛ける。
「……雪夜さんは、知ってたんですか?兄ちゃんと優さんのこと」
動き出した電車の中で、星が小さく呟いた。
「知ってた……つっても、星と付き合い始めてから聞かされたから、俺も知ったのはつい最近だ」
「そうだったんですね……兄ちゃんは優さんといるときが一番綺麗だって、オレ思ってて。やっぱり、今日の兄ちゃん見ててもそう思ったから……まさか、とは思ったんですけど」
「あの二人は、アレでいい。付き合い方なんて人それぞれだろ、俺がどうこう言えるコトじゃねぇーけどな」
「兄ちゃん、幸せそうでした。オレも今日、とっても楽しかったです」
「なら良かった。星が楽しめたなら、俺はそんだけで充分、満足」
「本当、雪夜さん、ありがと……」
段々と、小さくゆっくりになっていく星の声。
ここが電車の中だというのも忘れて、こてんと俺の肩に頭を預け、星は夢の中へと足を踏み入れていく。
「星、せーい?」
小さく声を掛けてみたが、大きな瞳が現れる様子はなかった。慣れない服装に、苦手な人混み。そんな中でも受け入れた、光と優、二人の関係性。
余程、疲れているんだろう。
俺と二人きりになりたいと、可愛く強請ってくれたものの、今は気持ち良さそうに眠り姫な星くん。
俺の家の最寄り駅まで到着するには、あと20分程かかる。眠ってしまった星を起こすまでの間、俺は触れるコトのできない星をただ眺めていた。
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