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第333話

雪夜さんが車を取りに出掛けたあと、オレは部屋のクローゼットを開けてみることにした。 普段は閉ざされていることが多くて、服以外に何が入っているのかよく知らない場所。引き戸の取手をそっと握って、パタンパタンと折れていく扉を開ける。 始めて中をちゃんと見たけれど、オレが思っている以上に大容量な収納スペースに驚いた。綺麗にハンガーに掛けられた服とは別に、シルバーのラックには色々な物があるみたいだけれど。 ……綺麗すぎるよ、雪夜さん。 並べられている本はもちろん、細々とした物はきちんと整理されていて。サイズの揃ったいくつかの収納ボックスは黒と白、交互に重ねて置かれていた。 シックな感じでお洒落な収納に、見えないとこまできちんと手が行き届いている。これで普通とか言っちゃう雪夜さんは、やっぱり頭がおかしいんじゃないかなって、オレは思ってしまった。 好きなように見ていいって、言われたけれども。本当に、オレはこの扉を開けてよかったのかなと少しだけ不安になる。 クローゼットの中には雑誌もあるし、漫画もあった。さまざまな物が綺麗に並んでいる中、その多くの物には共通点があることをオレは発見したんだ。 けれど。 オレはなんだか、今はいない雪夜さんの心に少しだけ触れてしまった気がした。雪夜さんはきっと、オレ以外にも触れていたいモノがあるんだ。 だけど、どうして。 こんなにも、好きな気持ちで溢れているのに。 オレが知っている雪夜さんは、自らそのモノに触れることがない。オレが見たのは一度だけ、しかもそれは、ほんの一瞬。 あのときの雪夜さんは、無邪気に笑っていたはずなのに。 オレが尋ねたとき、小さく呟かれた言葉は普段と違う口調で。やってねぇーよって、いつもみたいに答えてはくれなかった。それが何を意味するのか、オレには分からないけれど。 クローゼット、開けていいよって言ってくれたってことは、別に隠されていたわけではないのかもしれない。 でも、きっと。 オレの知らないことが、まだまだたくさんあるんだ。カラダで繋がることができても、何度愛してると伝えても。雪夜さんのすべてを知ることなんて、本当はできないのかもしれないけれど。 雪夜さんの全部を、教えてくれるって約束だから。最初に会ったときの雪夜さんの言葉を思い出したオレは、きゅっと唇を噛んでしまう。 「……そのうち、話してくれるよね」 誰に言うわけでもなく、呟いた独り言。 寂しさを紛らわすように、オレは一冊の雑誌を手に取ってみた。 ペラペラと雑誌の内容を読んでみるけれど、オレが読んでもつまらないというより、正直よく分からない。でも、雪夜さんがこの雑誌を読んでるんだなって思ったら、オレもなんだか真剣に読み始めてしまって。 過ぎていく時間の遅さを気にすることなく、オレはソファーに座って雑誌を読みながら、雪夜さんの帰りを待っていた。

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