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第335話
「ん、コレご褒美な」
雪夜さんがご褒美として出してくれたのは、とっても美味しそうなシュークリームとガトーショコラだった。おまけに、雪夜さんはオレが大好きなカフェオレも用意してくれたから。
「美味しそうっ!雪夜さん、ありがとうございます」
オレがルンルン気分でお礼を言うと、雪夜さんは嬉しそうに目を細めてくれる。小さな幸せの積み重ねが、とても心地よく感じる瞬間。
二人並んで、ソファーに座って。
まったりとした時間を過ごしつつ、オレは雪夜さんとサッカーについて話してみることにした。
「フォワードが点を取る役なら、弘樹は点取る人だったんですね。前に弘樹が言ってました、俺フォワードだからプレッシャー半端ないって」
いつも聞き流していた弘樹との会話を思い出してオレがそう言うと、雪夜さんは頷いてくれた。
「やっぱ、アイツは点取り屋か」
「弘樹って、そんな感じに見えるんですか?」
オレは弘樹の幼馴染だけれど、小さいころから弘樹を見ていたオレはまったく分からないのに。雪夜さんは、腑に落ちているみたいで。
「なんとなく、だけどな。フィールドにいてもプレイヤーの性格とかスタイルって、結構出てくるもんなんだよ。アイツは犬っころみたいに、無我夢中でボール追っかけ回して点取るバカ犬っぽいから、フォワードってのは納得」
犬……確かに弘樹って、犬っぽいかも。
「サッカーって、そんなバカでもプレッシャー感じんだよな……フォワードだけじゃねぇーけど、素早い判断能力やテクニック、仲間との連携とか、相手ディフェンダーとの駆け引きとか……」
話の途中でブラックコーヒーを口にした雪夜さんは、シュークリームを頬張りながら話を聞いていたオレを一瞬見て、すぐに視線を逸らしてしまう。
「わりぃー、よく分かんねぇー話されても、つまんねぇーよな」
「分かんないけど、教えてください。オレ、雪夜さんの話もっと聞いていたいです」
雪夜さんの好きなことや、興味があること。
なんだって構わないから、もっとオレに教えてほしい。
分からないことでも、少しずつ分かるようになりたいから。そんな思いを込めて、オレは雪夜さんを見つめてみる。
「なら話してやってもいいけど、本当につまんねぇーぞ……ってか、その前にお前どこにクリームつけてんだ」
「んっ…」
オレの口の端についていたらしい生クリームを、ペロッと舐めとった雪夜さんはそのままオレの唇を奪っていく。
「はぁ、んぁ…」
甘さの中にじんわりと広がっていく、コーヒーの味。雪夜さんのキスは、甘くてどこかほろ苦い。チュッと重ね合う口付けから、徐々に味わうようなキスに変わって。
「ゆきっ、ぁッ」
カラダの力は抜けていくし、オレの後頭部に回された雪夜さんの手は、逃げることを許してはくれない。
飲みかけのカフェオレ、まだ手をつけてないガトーショコラ。訊きたいこともたくさんあるのに、上がっていく体温と熱くなる吐息が恥ずかしくて。
「……星」
唇を離してニヤリと笑う雪夜さんを、オレはただ涙目で睨むことしかできなかった。
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