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第339話

「華がいねぇーなら、良かった」 ……だからといって、兄貴に土下座はしねぇーけど。 「お前が帰ってくるっつったら、ゆきにぃ!!って飛んでくんぞ、あのクソアマ。やーちゃんは、俺のもんなのにな」 クソだの殺すだの、まるで挨拶かのように平気で汚い言葉を使う兄貴たち。俺の口の悪さは、確実に兄貴たちのせいだと思う……だが、今はそれよりも。 「誰がいつ、兄貴のモノになったって?」 確かに兄貴には逆らわないが、俺は華のモノでも兄貴のモノでもない。俺は、大事な星くんのモノ……なんて、兄貴には言えないが。 「やーちゃんが産まれたときから、お前はすでに俺のモノだろ」 「ふざけんな」 イラっとして眉が寄る俺の表情を見て、満足そうに笑う兄貴。何処に連れていかれるのかも分からず兄貴が運転する車に乗り、俺は飛鳥に遊ばれていた。 「……まぁ、んなコトはどうでもいいけどよ。なーちゃんのブラコンぶりには、俺も頭悩ませてんの」 ゆきにぃ、小さい頃から俺をそう呼び、俺によく懐いている妹の華。兄貴たちとは違う意味で、俺にはかなり鬱陶しい存在だ。 「ただ、面倒見てたのが俺だったからだろ。華だって、もう子供じゃ……」 「あのクソアマはまだガキだ、お前も」 俺がガキなのは、百も承知だ。 27と19、どれだけ背伸びしても埋められない差が、俺と兄貴にはあるのだから。それだけじゃない……星と出逢ってからの俺は、自分の情けなさに気付かされてばかりだから。 「俺がガキなのは、知ってる。でも兄貴、華ももう高二だろ、俺から離れていい頃なんじゃねぇーの」 「そうなってねぇから、厄介なんだよ。お前が俺達兄妹のこと嫌いなのは、俺もまーちゃんもよく分かってる。そうなって当然のことを、今までお前にしてきたからな……でもな、なーちゃんはソレに気づいてねぇんだ」 「華はともかく、兄貴たちは嫌われてる自覚あんなら自分から近づいてくんなよ」 「それはできねぇ、弟可愛がって遊んでいいのがお兄様の特権。俺は好きだぜ、やーちゃん?」 「うるせぇーよ……っつーか華の話するために、わざわざ呼びつけたワケ?」 「お前が訊いてきたから、答えてやっただけ。今日はどうしても、やーちゃんと二人きりでデートしたかったんだよ」 ……運転しながら、妙に甘い声でそんなコト言うな。女じゃあるまいし、弟の俺にまで色気出す必要なんてねぇーだろ……なんで俺は、こんな兄貴の弟なんだんか。 「んなコト、女に言えよ……俺、今日バイト休んで兄貴に会いに来たってのに」 「今日のデートの相手は、お前じゃねぇとダメなんだ……ほら、着いたぞ」 そう言われて車を降りた俺は、連れられてきた場所を確認して項垂れる。如何にも女が好きそうなフレンチレストラン、しかも案内された席は予約席。 このクソ兄貴。 ……デートって、マジじゃねぇーかよ。

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