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第343話
飛鳥とのデートとやらを終え、遊馬にメンテナンスされた車に乗って。華に会うことはなかったものの、結局家に帰る気にもなれず俺が向かった先は、ランの店だった。
「なるほどね、それであんな時間からお店に来てくれたってわけなの。貴方に会えるのは素直に嬉しいけど、今日は少し飲みすぎなんじゃないかしら?」
昔のようにダラダラとランの店で時間を潰し、早目に店を閉めたランに、今日のお代を受けとらない代わりに何があったか話しなさいと、俺は強制尋問をくらった。
「酔い覚めるまで、いつもんとこで寝かしといて」
「飲んだ上に朝帰りって、少し前の貴方じゃないんだから……やましいことがあるわけじゃないけれど、星ちゃんにこんな姿知られたらどうするのよ」
……こんな姿って、別に酔い潰れてるワケじゃねぇーんだけど。
情けなさすぎて、今の俺は見るに耐えないってところなんだろうか。受け取った名刺を見つめ、俺はカウンターに頬杖を付く。
「なぁ、ラン……俺、どーすりゃいい?」
「どうするもなにも、とりあえずその名刺の方に連絡してみることね。そうでないと、話も進まないわ」
「だよな、でも今の俺にそんな勇気ねぇーよ」
将来、どうするかなんて。
まだ漠然としか考えていなかったし、今の俺は星と一緒にいれればそれだけで充分で。夢みたいな夢の前で、立ち止まり背を向けることしかできないでいるのに。
「雪夜、貴方の夢を星ちゃんは知ってるの?」
「アイツには、言ってない……ってか、お前以外で知ってんの兄貴たちしかいねぇーよ。夢諦めろって言われたヤツに、今更追いかけろって言われてもな。俺さ、星のために……アイツとともに生きていきてぇーなって、最近思えたばっかなんだ」
「それなら尚更、星ちゃんには話してあげるべきことなんじゃないかしら……って言ってあげたいところだけど、今の貴方じゃ無理そうね」
「だから、お前のところにいんだろ。俺たぶん今アイツに会ったら、星が泣き叫んで本気でイヤだって言っても、無理矢理犯しちまう自信がある」
身体を繋げて俺が安心したところで、アイツを傷つけるだけだ。そんなことになる前に、自分自身で気持ちの整理をつけなきゃならないことくらい分かってはいるけれど。
……なんとも言えない、どうしようもない不安感はどうやって整理すりゃいいんだ。
「欲のはけ口にでも、なってあげましょうか?雪夜になら悦んで、カラダ貸してあげるわよ?」
「ふざけんのも大概にしとけや、オカマ野郎」
「冗談よ、今の貴方が星ちゃん以外抱くなんて思えないもの。ねぇ、雪夜……あの子ならきっと、貴方の全てを話しても包み込んでくれると思うの。怖がる必要は、ないんじゃないかしら?」
ランからの言葉で、俺は星から拒絶されることに怯えているのだと悟った。情けない自分を、己自身で認めてやること……それがまだ、今の俺にはできそうにないから。
「料理人になりたいって、あんなキラキラした瞳で言われてんだ……中途半端に夢語れっか、バーカ」
「バカなのは、雪夜のほうでしょ?」
「うるせぇー、そんなもん俺が一番よく分かってんだよ」
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