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第345話
【星side】
夏休みの期間中、オレは雪夜さんの家と自分の家を行ったりきたりして。特にどこかへ旅行とかに行ったわけじゃないけれど、オレは雪夜さんと過ごせる何気ない毎日に幸せを感じていた。
毎日のようにバイト続きの雪夜さんのために身体に良さそうなご飯を作って待っていたり、サッカーの雑誌や漫画本を読んで過ごしたり。
雪夜さんが家にいない時間は、やっぱり寂しく思ったけれど。でも、バイト帰りの雪夜さんはいつだってオレを優しく抱きしめてくれた。
雪夜さんのバイトがお休みの日は、二人で買い物やドライブに出掛けたりもして。その……えっと、えっちなコトもしたりして……オレは、とても楽しい夏休みを過ごすことができたんだ。
でも。
お盆が開けたくらいから、なんだか雪夜さんの様子が少しおかしい気がしていて。大きな異変なのかと訊かれると、そうではないけれど。
二人でいるとき、いつもよりオレに甘えてくれる雪夜さんはとても可愛く思えるし、いつも通り意地悪で優しい雪夜さんなときも、もちろんあったんだ。
けれど。
心ここにあらずというか、雪夜さんはなんとなく常にボーッとしてて。といっても、雪夜さんって基本ボーッとしているから……本当に、小さな小さなことなのかもしれないけれど。
夏休みが明けたら、また週末だけしか会えない日々になってしまうのに。最後に離れるときの雪夜さんの表情は、やっぱりどこか晴れない感じがした。
オレが勝手にそう思っているだけで、雪夜さんが本当になにかに悩んでいたりするのかは分からない。
一緒にいて。
楽しいとか、嬉しいとか、プラスの気持ちになっていたのはオレだけだったのかな。愛してるって、雪夜さんが伝えてくれる言葉はウソじゃないとわかってはいるけれど。
芽生えつつある小さな不安感を覚えながら、オレはベッドに転がり目を閉じる。
自分の部屋に、雪夜さんはいない。
オレのベッドにはふわふわで、抱きしめると安心できるステラもいない。オレが大好きな、ブルーベリーの甘い煙草の香りだってしない。
明日から始まる新学期。
学校が嫌いなわけじゃないけれど、雪夜さんと一緒に過ごしていた時間が恋しくなってきてしまう。
せめて声だけでも聴けたらなって思うけれど、今日の雪夜さんはラストまでバイトだから。家に着くのは23時前だろうし、オレも明日は久しぶりの学校で早目に寝ないといけないし。
そう思っても、オレはなかなか寝つけなかった。さすがに、21時から眠りに就こうと思うのは無理があったみたいだ。
こんなことなら少しくらい、夏休みの課題をやり残しておいても良かったのかも。
特にやることもなく、寝付くまで適当にスマホを弄っていようと思い、オレは枕の隣に置いてあったスマホに手を伸ばす。
そのとき、タイミング良く震えだしたスマホにオレはビクッと反応して。画面にでてきた通話の表示に、オレは少しだけ驚いてしまった。
だってそれは、オレがずっと待っていた人からの電話だったから。文字だけのやり取りじゃなくて、声を聴けることにドキドキしながらオレは緑のマークに触れていた。
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