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第346話

『久しぶり、セイ』 「弘樹……久しぶり、元気にしてた?」 距離をおきたい、そう言われたあの日から。 オレは、弘樹からこうやって連絡が来るのをずっと待っていた。 顔を見ることもなく、声を聞くこともなく。 弘樹と連絡を取り合ったのは、オレが誕生日の日のLINEだけで。ずっと一緒にいたはずの幼馴染みからの電話に、オレは少しだけ緊張してまう。 でも、それは弘樹も同じみたいだ。 『元気にしてた……というより、元気になったかな』 電話越しから、照れ臭そうな弘樹の声がする。 久しぶりすぎて、なにを話したらいいかよく分からないオレは、とりあえずプレゼントのお礼を告げることにした。 「あ、そういえば……誕生日プレゼント、ありがとう。毎年恒例のお菓子の詰め合わせ、すっごく嬉しかった」 『ああ、幼稚園の頃から渡してたから。俺の中では、セイの誕生日にお菓子渡すのが当たり前になっててさ、喜んでくれたなら良かった』 「うん、ありがとう」 弾むようで、ぎこちない会話。 静かな沈黙は、オレと弘樹が離れた距離のようにも感じてしまう。でもきっと、そう感じることができるのも今だけなんだって思うんだ。 『あのさ、俺……気持ちの整理して、ちゃんとけじめついたから。明日からまたセイのこと、迎えに行ってもいい?』 ……弘樹はやっぱりオレの幼馴染みで、大事な親友だよ。 「うん、ありがと。嬉しい」 『はぁーッ……良かったぁ、断られたらどうしようかと思ってた。ありがとう、セイ』 「それは、こっちのセリフ」 電話越しでもクスクスとお互い笑い合えて、弘樹はオレの中で、とても大事な人なんだって再確認する。 『いつもの時間に迎えに行くけど、俺、日焼けすごくて、夏休み前と別人になってるから。びっくりしないようにな』 「……あ、うん。そんなに焼けたの?」 『焼けたっつーか、焦げた。部活の夏合宿でさ、あっつい中地獄の走り込みやって、炎天下に晒された俺はもう真っ黒だぜ』 「そっか、弘樹夏休みの間も部活漬けで頑張ってたんだ。オレ、夏休み特に何にもしてないかも」 雪夜さんの家にはいたけど、頑張ったよって報告できるようなことはしていない。そう思って、オレが何気なく言った言葉に弘樹は食いついてくる。 『何もしてないわけないだろぉ、あの人と一緒に楽しく過ごしてたんじゃねぇの?』 「そう、だけどっ……でも、弘樹くらい頑張って夏休みを過ごしてたわけじゃないから」 弘樹の問いに、否定はできなくて。 オレは、自分の思ったことを弘樹に伝えたけれど。お互いにそのあとは会話が続かず、無言の時間が流れていく。 でも。 『なぁ、セイ……あの人といれて、幸せか?』 「……うん」 『良かった、それなら俺も幸せだ』 嘘偽りない弘樹からの言葉に、胸がきゅっと切なくなるけれど。それよりも大きく感じるのは、弘樹への感謝の気持ちだった。 一度は壊れそうになった、オレと弘樹の関係。 それに気づいて、オレたち二人に手を差し伸べてくれたのは、オレの大好きな雪夜さんと兄ちゃんで。 支えられて、取り戻せた親友の存在。 明日は笑って会えるかなって、そんなふうに思いながら、オレは弘樹の声を聞いていた。

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