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第349話

オレが家に来てから、20分くらいが経過したけれど、雪夜さんは目覚める気配がない。 オレはなんだか寂しくなって、テーブルとソファーの間に座り込むと、眠る雪夜さんに背を向けた。 オレがさっき外してあげた眼鏡を手に取って、オレはなんとなくその眼鏡をかけると、首を少し動かしてみる。 ブルーライト用の眼鏡だから、部屋の中を見回すだけじゃ、普通の眼鏡との違いを確認することはできなかった。 眼鏡の姿の雪夜さんはかっこいいのに、オレはきっと全然かっこよくないんだろうなぁ……なんて、一人で考えて、余計にしょんぼりして。 雪夜さんに、ぎゅって抱きしめられたい。 まさに、オレがそう思った瞬間。 「……星」 寝ていたはずの雪夜さんに、オレは背後から抱きしめられていた。 「……え、いつから起きて」 雪夜さんが起きていたことなんて、気づきもしなかったオレは、自分がしている行動を恥ずかしく思ってしまう。 「んー、さっき……来いっつったの俺なのに、寝ちまってて悪かったな」 オレの首筋に触れる、雪夜さんの髪がくすぐったい。こてんと肩に頭を預けてくる雪夜さんは、やっぱりまだ眠たそうだと思った。 「ううん、大丈夫です。それより、雪夜さん……無理、しすぎてません?こんな中途半端な状態で寝ちゃうなんて、かなり疲れが溜まってるんじゃないですか?」 「無理っつーか、途中で力尽きたっぽい。溜まった疲れをお前に癒してほしくて連絡入れたんだけど……こっち向いて、星」 背後から回された手は、オレの顎をそっと掴む。独特な甘い空気の中を流されるようにふわりとされたキスは、さっきオレが寝ている雪夜さんにしたキスより幸せを感じる。 「んっ……雪夜、さん」 こんな幸せなキスは嫌じゃない、というより嬉しい。だけど、振り向いたらまだ外していない眼鏡が雪夜さんにバレてしまう……そう思って、オレはすぐに唇を離して雪夜さんの方を見ないようにしたんだ。 ……でもね、やっぱりバレてたみたい。 「星、眼鏡ズレてんぞ。度は入ってねぇーからかけても問題ねぇーけど、お前俺の物を身につけて遊ぶの好きな」 クスっと笑って、言われた言葉。 確かにオレは雪夜さんの服とかよく着てるし、雪夜さんの物を身につけるのは安心できるから好きなんだけど。そんなことを、雪夜さん本人に知られてしまうのは恥ずかしいから。 オレは頭の中で言いわけを考えながら、ボソボソと雪夜さんに説明する。 「いや、あの、これは、その……なんとなく、どんな見え方するのかなって、気になっただけで……別に、雪夜さんの物だからってわけじゃ……」 「ふーん、ならそんな顔赤くする必要ねぇーだろ。お前、眼鏡でも可愛いかも」 オレのズレた眼鏡をくいっと指で上げて、ニヤリと笑った雪夜さんには、言いわけなんて無意味だったようで。恥ずかしくて顔を赤く染めることしかできずにいるオレは、自分がした行動を少しだけ後悔した。

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