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第350話
寝起きの頭を覚ますために、咥えられた煙草。
散らかったテーブルの上を片付けながら吸っているからか、雪夜さんの眉間に少しだけ皺が寄る。
そんな姿もかっこいいなって思ったオレは、雪夜さんにとっての朝食、オレにとっての昼食を作っているんだ。
雪夜さんから、眼鏡のことでからかわれて遊ばれたあと。お疲れの雪夜さんにご飯を作ってほしいと強請られたオレは、キッチンに立ってサンドウィッチを作っている。
雪夜さんの家にいるときは、オレの好きなように食材を使っていいと許可が下りているから。雪夜さんが常備しているバゲットと、冷蔵庫にあった食材を使って、今日はアボカドチキンサンドを作ってみたんだけれど。
お皿に盛り付けたら完成ってところで、雪夜さんがオレの頭の上に顎を乗せてくる。そのまま後ろから抱きしめられて、オレの手は止まってしまった。
「すっげぇー美味そう、腹減った」
「えっと、ほぼできてます。あとは、盛り付けたら完成なんですけど……雪夜さんって、こうするの好きですよね」
ご飯を作っているときや、洗い物をしてるとき、雪夜さんはよくこうして、オレを後ろから抱きしめて遊んでいる。
「あー、かなり好き。特にキッチンに立ってるお前をこうして抱いてると、すげぇー安らげんだよ……星は、嫌い?」
嫌いなわけがない。
オレだって、こうして雪夜さんに抱きしめてもらえるのは幸せだと思うから。
……ただ、ちょっぴり動きづらいってだけで。
「オレも好きです……でも、先にご飯にしませんか?お腹空いたなら、食べてから二人でゆっくりしましょ?」
いつもと同じ状態に戻ったテーブルに、並んだ二つのお皿とマグカップ、あとはおまけのココット皿。ソファーに腰掛け、二人並んで、いただきますと両手を合わせて。
あっという間に腹ごしらえを終えてしまったオレたちは、食べる前と同様に二人でイチャつきながら洗い物を済ませていく。
「そういやさ、今日の朝、弘樹からLINEきた。お前ら久しぶりに会えたみてぇーじゃん、どうだった?」
そう訊く雪夜さんは、洗い物をしているオレを抱きしめている。この体勢が本当に好きなんだなって思いつつも、オレは弘樹との会話を思い出して。
「最初はなにを話したらいいか分かんなかったけど、やっぱり幼馴染みですね。気づいたら、前みたいに話せてました……って、あの、えっと、雪夜さんってボランチですか?」
突然よく分からない質問をしてしまったオレに、雪夜さんからの返事はなかなか返ってこなかった。少しの沈黙のあと、意味を理解してくれたのか、後ろにいる雪夜さんの肩が僅かに震え始めて。
「あぁ……やるならボランチだけど、いきなりどーした?」
クスッと笑いながら、雪夜さんはオレの質問に答えてくれたんだ。
「このあいだ、雪夜さんがサッカーやってたらポジションなんとなく分かるって話してくれたでしょ?だから今日、弘樹に訊いてみたんですよ。そしたら、雪夜さんはボランチっぽいって言われたから」
……弘樹すごいや。予想的中、大正解だね。
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