350 / 555

第350話

寝起きの頭を覚ますために、咥えられた煙草。 散らかったテーブルの上を片付けながら吸っているからか、雪夜さんの眉間に少しだけ皺が寄る。 そんな姿もかっこいいなって思ったオレは、雪夜さんにとっての朝食、オレにとっての昼食を作っているんだ。 雪夜さんから、眼鏡のことでからかわれて遊ばれたあと。お疲れの雪夜さんにご飯を作ってほしいと強請られたオレは、キッチンに立ってサンドウィッチを作っている。 雪夜さんの家にいるときは、オレの好きなように食材を使っていいと許可が下りているから。雪夜さんが常備しているバゲットと、冷蔵庫にあった食材を使って、今日はアボカドチキンサンドを作ってみたんだけれど。 お皿に盛り付けたら完成ってところで、雪夜さんがオレの頭の上に顎を乗せてくる。そのまま後ろから抱きしめられて、オレの手は止まってしまった。 「すっげぇー美味そう、腹減った」 「えっと、ほぼできてます。あとは、盛り付けたら完成なんですけど……雪夜さんって、こうするの好きですよね」 ご飯を作っているときや、洗い物をしてるとき、雪夜さんはよくこうして、オレを後ろから抱きしめて遊んでいる。 「あー、かなり好き。特にキッチンに立ってるお前をこうして抱いてると、すげぇー安らげんだよ……星は、嫌い?」 嫌いなわけがない。 オレだって、こうして雪夜さんに抱きしめてもらえるのは幸せだと思うから。 ……ただ、ちょっぴり動きづらいってだけで。 「オレも好きです……でも、先にご飯にしませんか?お腹空いたなら、食べてから二人でゆっくりしましょ?」 いつもと同じ状態に戻ったテーブルに、並んだ二つのお皿とマグカップ、あとはおまけのココット皿。ソファーに腰掛け、二人並んで、いただきますと両手を合わせて。 あっという間に腹ごしらえを終えてしまったオレたちは、食べる前と同様に二人でイチャつきながら洗い物を済ませていく。 「そういやさ、今日の朝、弘樹からLINEきた。お前ら久しぶりに会えたみてぇーじゃん、どうだった?」 そう訊く雪夜さんは、洗い物をしているオレを抱きしめている。この体勢が本当に好きなんだなって思いつつも、オレは弘樹との会話を思い出して。 「最初はなにを話したらいいか分かんなかったけど、やっぱり幼馴染みですね。気づいたら、前みたいに話せてました……って、あの、えっと、雪夜さんってボランチですか?」 突然よく分からない質問をしてしまったオレに、雪夜さんからの返事はなかなか返ってこなかった。少しの沈黙のあと、意味を理解してくれたのか、後ろにいる雪夜さんの肩が僅かに震え始めて。 「あぁ……やるならボランチだけど、いきなりどーした?」 クスッと笑いながら、雪夜さんはオレの質問に答えてくれたんだ。 「このあいだ、雪夜さんがサッカーやってたらポジションなんとなく分かるって話してくれたでしょ?だから今日、弘樹に訊いてみたんですよ。そしたら、雪夜さんはボランチっぽいって言われたから」 ……弘樹すごいや。予想的中、大正解だね。

ともだちにシェアしよう!