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第351話

後ろから抱きしめられたまま、キッチンからベッドへと移動して。壁に凭れた雪夜さんの脚の間に、オレはちょこんと座っている。 オレの肩に顎を乗せ、カプっと耳を甘噛みした雪夜さんは、少しだけ、声のトーンを落として話してくれて。 「……星、俺がサッカー好きだって、いつから気づいてた?」 「え?」 いきなり言われて、なんのことだかよく分からないオレは、間抜けな声しか出せない。 「気づいてんだろ。だから弘樹にも訊いたんじゃねぇーの、俺がどこのポジションか……なんてコト」 確かに、雪夜さんの言っている通り。 雪夜さんの好きなことだから、オレはサッカーのことについて色々知りたくて。弘樹に愛の力なんてバカにされたけれど、强間違いじゃない気もしているから。 「気づいたっていうか、そうなのかなって……雪夜さんって部屋に無駄な物を置かないのに、雪夜さんのクローゼットの中はサッカー関連のもので溢れてたから」 素直に思ったことを伝えたオレは、雪夜さん本人から、サッカーが好きだって事実を一度も告げられていなかったことに今更気がついた。 「あとね、オレはちょっとしか見たことないですけど、あんなに上手だったら誰だってそうなんじゃないかなって気づくと思いますよ?」 顔は見えないけれど、オレの言葉で雪夜さんが嬉しそうに笑っている感じがする。オレを抱きしめる手にちょっとだけ力が加わって、オレは雪夜さんの温もりを感じた。 「星くん……お前に、話しておきたいコトがあんだけどさ。俺、来月からバイトもう一つ増えるから」 「え、はぁっ?!」 今ですら、忙しそうなのに。 更に増えるって、どういうことなんだろう。 雪夜さんには、雪夜さんなりの考えがきっとあるんだろうけれど。この人は、本当に何を考えているのかよく分からない。 びっくりして、思わず振り返ったオレだったけれど。雪夜さんは優しく笑って、オレの頭をよしよしって撫でてきて。 「そんなに驚くコトか?増えるっつっても週1で入るだけだから、今とそんな変わんねぇーよ。お前がきたとき、部屋散らかってたのはその関係だ」 オレに直接関係のないことでも、雪夜さんが隠さずに話してくれたことは素直に嬉しい。 ……でも、少しだけ心配だから。 くるっと身体の向きを変え、ベッドに膝をついたオレは、雪夜さんの首にきゅっと抱きついて質問する。 「どんなアルバイト、するんですか?」 立膝のオレを支えるように、オレの腰に沿えられる雪夜さんの手。もっと触れて、もっと教えてほしい。オレの知らないこと、雪夜さんの考えていること、すべてを……なんて、思うオレは、かなりのわがままだと思う。 「サッカースクールのコーチ……将来的に、この仕事でやっていきたいと君が思えるように、とりあえずバイトとして仕事内容を覗いてみないかって誘われて」 「……そう、だったんですね。でも、将来的にってことは、雪夜さんコーチになるってことですか?」 「それは……やってみないと分かんねぇーけど、悪くねぇーかなとは思ってる」

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