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第353話

ベッドへと沈んでいく身体は、雪夜さんにしっかりと抱き止められたまま。降ってきたキスに、息をするのも忘れそうになるけれど。 「ちょっ…んッ、待って…」 明日も学校があるのに、このままシちゃったら、オレ帰れなくなっちゃう。それに、なにもしないつもりだったんじゃ……って、オレがそう思ったとき。 「その言葉、俺が聞くと思う?」 耳元で囁かれた言葉に、オレは酷く納得した。 そうですよね。 こういうときの雪夜さんはオレの話を聞いてくれないし……って違う、そういうコトじゃなくて。 「もぅ、だめ…です」 どこで雪夜さんのヤる気スイッチを押してしまったのか、オレはさっぱり分からないけれど。求められることは単純に嬉しいのに、オレは素直になれなかった。 けれど。 「……星、好きだ」 ……あぁ、もう。 こんな誘い方、ずるいよ。 切なそうに揺れる瞳で、真っ直ぐに見つめられたら拒否なんてできないから。 「雪夜、さん…っ、はぁ」 「俺の全部、受け入れて……」 ゆっくりと重ねられた唇は甘くて、もうそれだけで、オレの身体から力が抜けていく。まるで魔法みたいに、さっきまで考えていた学校のことも、帰れなくなっちゃうって、思っていたことも……すべてが、どうでもよくなっていく。 「っ、ん…ぁ」 キスの合間で息をするのがやっとのオレに、追い討ちをかけるように、クスッと笑った雪夜さんが責めてくる場所はオレの弱いところばかりだった。 「ぁ、はぁ…ん」 ……あ、これ、ダメなやつだ。 「んっ、ふぁ…あッ、やぁ」 上顎の裏を舌先で撫でられて、それと同時に指先で音を塞ぎながら耳の輪郭をなぞられる。力が抜けた身体にこんなことをされちゃうと、オレは頭の中が真っ白になって、閉じていた目を開けたときには涙が勝手に流れ落ちてしまう。 「お前、コレ好きな」 オレの濡れた唇を親指で拭って、雪夜さんは余裕そうな笑みを浮かべオレを見つめていた。きっと、オレが勝手に好きになったんじゃなくて、雪夜さんが好きにさせたんだと思うんだ。 「ん…っ、好き」 抵抗するはずの手も、意思を告げるための口も。オレのすべてが、雪夜さんの思うがままになっていく。 さっきオレが泣いたせいで、濡れたTシャツを脱いだままの雪夜さんは素肌だし、オレが伸ばす手が行き着く先は雪夜さんの首元で。縋りついたオレに、求められる言葉は一つだ。 オレ自身知らない気持ちいい場所を、雪夜さんはたくさん知っているから。気がついたらいつもオレから、雪夜さんがほしいって、泣いて、縋って、強請っている。 ……今日だって、やっぱり。 「んぁっ…もぅ、ほしぃ…」 「ん、いい子……上手に強請れて偉いな、星」 優しく笑って、オレの頭を撫でてくれる雪夜さん。蕩けた頭も、身体も、心だって全部……雪夜さんで、満たされたい。だからひとつになって、感じたいって思うんだ。 ぐちゃぐちゃになって、名前すら呼べなくて。 それでも好きだって、愛してるって、伝わるから。 「星、愛してる」 この一瞬が、幸せ。

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