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第356話
「しーらーいーしーッ!」
「……んだよ、うっせぇーな」
人の耳元でテンション高く、キャンキャン騒ぐ康介。ショップのバイト中、暇な康介が俺に絡んできて酷く鬱陶しい。
9月に入り、夏休みが終わったためか、学生や家族連れといった客層は少なく、店内は静かに時間が流れているのに。
「なぁーなぁー、鎖骨の痕、薄くなってきてるけど、それってまだいてぇもんなの?」
俺のパーカーのジッパーを下げて、星に噛まれた痕をチラリと覗き見た康介は、ニヤリと笑い俺を見る。別に見られたところでなんとも思わないが、俺も暇だし少し康介と遊んでやろう。
「いや、痛くはねぇーな……けど、痕薄れるとアイツに会いたくなるから、いてぇー方がイイのかも。お前にも付けてやろーか、俺が噛んでやるよ、お前の鎖骨」
俺と同じようにパーカーのジッパーを下げてやり、戸惑い始める康介の顔を覗きながら、営業スマイルに付け加えてやるのはウインクだ。
「あっ、え……白石、俺たちバイト中」
バイト中だと分かっているのなら、最初から騒ぐ必要はないだろうに。本当にバカだな、コイツ……なんて、心の内は見せることなく俺は康介に詰め寄っていく。
「いいじゃねぇーか、隠れてシた方がスリルあんだろ?」
そう耳元で囁き、俺は康介の鎖骨をスッと撫で上げた。
「ちょ……ッ、白石っ!!」
どうせヤる相手もいないコイツは、こんなコトでもいちいち騒ぎやがるから面白い。星以外に興味はないと、俺が何度言ったらコイツは理解するんだろうか。
「なんてな、俺がお前に痕つけるワケねぇーだろ。バイト中って分かってんなら大人しくしとけや、バーカ」
「なんだよっ!!白石エロすぎ、俺もう無理……一瞬、マジで噛まれるかと思った」
「だから、噛まねぇーよ」
ジッパーをぎゅっと握り、俺に背を向けて丸まっていく康介。哀れな男だと思いつつ、俺はそんな康介に声を掛けていく。
「それよりお前、今日俺の奢りで飲み連れっててやっからさ、バイト終わったら付き合えや」
コイツには色々と話さなきゃならないことがあるし、たまには奢ってやってもいいだろう……と、今日は珍しく俺から康介を誘ったが。
「えっ?!マジで!!行く、いく、イクっ!!」
……なんでコイツは、いつにも増してこんなにうるせぇーんだ。
テンション高い康介に、俺は仕事の話をしなきゃならないのかと思うと、余計に話をしたくなくなる。
「イクイク連呼すんな、バカ。お前テンション高すぎ、マジうぜぇー」
「だって、白石から飲み行こうなんてお誘い受けたんだぜ?そりゃ、うるさくもなるし、テンションも上がるっしょッ?!」
「女と飲み行くワケじゃねぇーんだから、騒ぐ必要ねぇーだろーが。それに、まだ仕事中だ」
「本当に奢り?!なぁ、ホントっ?!」
……あー、うるせぇー。
「奢り……んで、連れてくのは飲み屋。だから大人しく働いてください、こーすけクン」
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