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第357話

「飲み屋って白石、ここスポーツバーじゃん。やばぁー、スクリーンデカい。なんか、すげぇオシャレ」 「代表戦じゃねぇーから、騒ぐ客もいねぇーだろ」 約束通り。 バイトを終えた俺と康介が向かった先は、小洒落たスポーツバー。コンクリート打ちっぱなしの壁に映し出されている映像は、チャンピオンズリーグの試合。 本当は、サッカーに興味を示してくれた星と来たかったのだが……ランの店なら兎も角、あの仔猫を飲み屋に連れてくるのはさすがにマズい。 もう少し成長したら、そのときは二人で一緒に訪れたい店ではあるけれど。 「白石ぃー、お疲れッ!」 「ん、お疲れ」 今日の目的は、そんな星との今後を見据えるための第一歩……とでも思わなければ、この騒がしい男とは落ち着いて話せそうになかった。 とりあえず、喉の渇きを潤すために流し込んだビールは美味い。バイト終わりの酒でテンションが上がる康介と、適当に食いたいもんを注文したあと、映し出される試合を眺めている俺に、康介はボソリと話す。 「白石から誘ってもらえたのはすげぇ嬉しいんだけどさ、なんか裏がありそうでこぇよ」 「裏っつーか、ただお前に話したいコトがあるだけ」 貰った名刺を康介に手渡し、コーチの話をした俺に、名刺を手に持ったままマネキンのように固まる康介。煙草を咥えた俺は、意外な康介の反応に少し戸惑ったが。 「……うっそ!!白石、マジでッ!!」 いきなり大声で叫び出した康介に、俺は溜め息を吐く。どうやら康介は話を理解するのに、頭をフル回転させて固まっていただけらしい。 「マジじゃねぇーなら、お前誘って飲んでねぇーよ」 「でもどうやったら、こんな名門スクールから声かかんだよ?お前大学休みのあいだ、なにやってたんだ?」 「別に、特になにも。声かかるっつーか、俺からかけたっつーか……俺の兄貴の知り合いがそのヘッドマスターで、仕事してみねぇーかって話になったんだよ」 「でもさ、ショップのバイトは続けんだろ?そんで週1コーチやって、大学の講義出て……白石、仔猫ちゃんの相手してる暇あんの?」 ……なんで、俺は康介に星のことを心配されなきゃなんねぇーんだ。 「アイツには合鍵渡してあっから、なるべく時間取って会うようにはする……そうじゃねぇーと、俺が死ぬ」 「溺愛継続中ってコトか。仔猫ちゃんが独りなら、俺が相手してあげようと思ったのにぃ」 唇を尖らせて、俺を見る康介が気持ち悪い。もういっそのコト、仔猫は男だとはっきり言ってやりたい気分だ。 「お前自分が誰にも相手されねぇーからって、人のもんに手出そうとすんな。アイツは、俺にしか懐かねぇーよ」 「リア充め、死んでしまえ」 「俺が今ここで死んだら、金払うのお前だぜ?」 「それは困る。生きろ、白石」 「死ねっつったのお前じゃん」 ……勝手なことばっか言いやがって、このバカが。

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