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第358話

入店したときには、前半10分だった試合の映像。今は後半25分、そろそろリザーブメンバーと選手交代も視野に入れる時間帯だ。 「やっぱさ、海外リーグの試合展開って早いよな。すっげぇ、股抜きシュート!あっー、ゴールポストかよぉ」 「相手ディフェンダーの足に、若干掠ってる……シュートの前のトラップが、上手く足に収まってねぇー証拠だ」 俺も康介も映し出される試合の行方が気になりつつ、食事と会話を楽しんでいた。 「康介、お前暇なときボール蹴んの付き合え。バイト前に、体慣らしておきてぇーから」 「おう、もちろんいいぜ。でも白石さ、お前ってズルすぎじゃね?仔猫ちゃんいて、将来の仕事もほぼ決まったようなもんだし、お前はどれだけ俺との差をつければ気が済むんだ?イケメンだしよぉーッ!」 「別に俺、お前と差つけたくて生きてるワケじゃねぇーんだけど……ってか、イケメン関係ねぇーし」 「関係あんだろっ!そんなダラダラしててもお前は掴むもの、ちゃんと掴んでんじゃん。それって、俺みたいなブサイクにはできねぇことだからな」 三杯目のアルコールを口にした俺に、康介は真顔で話し始める。やたらとイケメンにこだわりがあるらしい康介は、俺と自分自身を比べ勝手に一人で落胆している。 たまには、コイツに優しくしてやってもいいかもしれない。そう思えたのは、数週間前、俺もランの店で独りこんなふうに項垂れていたからなんだと思う。 「どーした、康介。らしくねぇーじゃん」 「……寂しい」 「はぁ?」 星に問うときのように、なるべく穏やかな声で康介に聞いてやったのに。なんで落ち込んでいるのか、真面目な言葉が返ってくる……なんてコトは、やはり康介相手じゃ起こらなかった。 「俺は寂しい。白石との差がどんどん開いて、俺だけおいてけぼりで……たまには構えよ、俺のこと。仔猫ちゃんもいいけど、俺のことも見てくれ」 グラスを見つめながら本当に寂しそうな顔をする康介が、酒に弱いことを俺はすっかり忘れていた。俺のペースに合わせて飲んでいる康介は、知らぬ間に出来上がってしまったらしい。 俺の奢りだと思って、普段飲まないような度数の強い酒ばかりを飲んでいることも関係あるんだろうが。付き合わせてしまった以上、今日はバカな康介をからかうことなく接してやろう。 ……ありがたく思いやがれ、バカ。 俺は深く溜め息を吐き、構ってと泣きそうな表情をする康介を見て苦笑いする。 「今こうして、構ってやってんだろ?」 「白石ぃー、俺お前のコト好きぃー」 「さっきまで死ねっつってたの誰だよ、バカ」 「俺はお前が嫌いで好きで、死んでほしくて生きててほしい。なんかよく分かんねぇけど、俺は白石に構ってもらえてんだって思うと幸せなんだよ」 「……お前、頭大丈夫か?」 もうここまでバカだと、笑うしかない。 星とは違う真っ直ぐさと正直さを兼ね備えた康介は、バカなりにいいダチだと思った。

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