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第359話
「雪夜さん……」
「光、マイク持って星の声真似すんな」
「さすが兄弟、クオリティが高い。星君そっくりだ」
「えへへ、そうでしょ?せいはまだ学校だし、ユキちゃんが寂しいかなと思って真似てみた」
金曜日の昼下がり、9月に入ってもまだあと少し休みがある大学生の俺たちとは違い、高校生の星は学校がある。暇な光に付き合わされた俺と優は、駅西のカラオケボックスに強制的に連行されていた。
「星君は学校が終わり次第、こっちに合流するのだろう?」
「その予定。お兄様の光がカラオケ来ねぇーと明日の星の泊まりはナシにするって言うから、仕方なく来たけどよ……俺、いらなくねぇーか?」
恋人同士の光と優なら、二人でイチャコラしときゃいいのに。なんでわざわざ、俺まで付き合わされなきゃなんねぇーの。
「だってさぁ、優と二人でカラオケは盛り上がらないんだもん。それにユキちゃん、やたらと歌うの上手だし」
「盛り上がりに欠けるなら、優にタンバリンでも持たせて踊らせときゃいいんじゃねぇーか。俺、星くん来るまで寝とくわ」
転がったソファーの上、星がいたなら膝枕でもしてもらえんのになぁ……なんて、アホなことを思いつつ俺は目を閉じるが。
「相変わらずだらしのない男だな、雪夜」
「せいは、この男の何処に惚れてんだろうね?」
星のように、俺をゆっくり寝かせてくれないのがこの二人。ここで寝ようと思うこと自体がそもそも間違いだってのは、例え気づいていても口には出さないでほしい。
「容姿がいいのは分かるがな、雪夜は昔から寝ているか、煙草を吸っているイメージしかない」
「うっせぇーよ、んなコト言ったら優だって、本読んでるか光に振り回されてるかのどっちかじゃねぇーか」
「んふふ、やっぱりユキちゃんがいたほうが面白い。ねぇ、ポッキーゲームでもして遊ぼっか?」
「イヤだ、お前ら勝手にキスでもなんでもしとけ」
「ユキちゃん機嫌悪すぎ。もしかして、欲求不満?」
目を閉じていても分かる、金髪悪魔の笑い方。
片方だけ上げた口角に、切れ長の瞳が細くなるのが頭に浮かぶ。
「性欲の塊は、常にヤっていないと落ち着かないのか?」
今度は優がかけている眼鏡を上げて、笑っているに違いない。昔から変わらないコイツらが、今日は酷く癇に障る。
仕方なく起き上がり煙草を手にした俺は、予想通りニンマリ笑っている二人を睨みつけた。
「お前ら殺すぞ。いくら俺でも、そんな常にヤるコトばっか考えてねぇーから」
苛立ちとともに煙草のカプセルを噛み、フレーバーの甘さを感じながら火を点けて。ゆったりと呼吸をすれば、星が好きな香りが室内に漂っていく。
「でもユキちゃんって、いつもセクシーな空気纏ってるじゃん。ソレって、やっぱりある程度ヤってないと保てないんじゃないの?」
「アホか、んなワケねぇーだろ。ヤってなくても、俺は元からこんなだ」
「雪夜は、産まれたときから変態ってコトだな」
「焼きいれっぞ、優」
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