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第360話

「ユキちゃんコワーイ。優、そのうち本当に煙草でじゅーってされちゃうかもよ?」 俺が咥えてる煙草を指差し、光は楽しそうに笑って優を見る。 さっさと、星を家に連れ帰って寝たい。 星くん独特な癒しの空気が、堪らなく恋しく感じる。 「今まで何度も雪夜に殺すと言われてきたが、殺されたことは一度もないから大丈夫だろう」 チラリと俺を見た優が、余裕な顔をしてフッと笑った。けれど、これ以上コイツが俺をからかうことはない。光と違い、優はそこまで俺に興味がないから。 「一度でも殺されてたら、優は今ここにいないでしょ。ユキちゃん、キレると本当に人殺しそうだし」 「そう思ってんなら大人しくしとけ、光」 「でもユキちゃんってさ、せいと付き合い始めてから雰囲気落ち着いたよね。昔と違って、ガチ恋狙いの女の子からも声かけられてそう……ね、今のほうがモテるでしょ?」 モテているのかは不明だが、言い寄られることは前よりも増えた。以前はあからさまにヤリモク狙いか、マウント狙いの女が多かったが、最近はタイプの違う女からも誘いがくる。 「俺は星がいいし、もうアイツ以外いらねぇーよ」 「高校時代の雪夜からは、想像できない言葉だな」 「毎日のように女の子がユキちゃん追っかけ回してたし、ユキちゃんも適当に付き合ってたしね。誰でもいいなんて言ってたユキちゃんが、懐かしく感じちゃう」 確かに、そんな頃もあった。 しかし俺のことよりも、高校時代の二人が今と変わらず付き合っていたことのほうが、俺からしたら驚きだ。 少しだけ、いつもより近い二人の距離。 俺が星に惚れることがなかったら、この二人の関係を俺が知ることは永遠になかったと思う。 「お前らは変わんねぇーのな、光が金髪になったくらいか?王子の性格の悪さは元からだし、優は高校の頃からすでにおっさん執事だったし」 懐かしく感じる数年前のコト。 過去と同じようで違う俺たちだが、くだらないことをいつまでも話していられるのは、きっとこの三人だからこそ。 「……優はねぇ、中学のころはまったく言うこと聞かなかったんだよ。というより俺最初、優のこと大っ嫌いだったから」 「なんだソレ、想像つかねぇーんだけど」 俺が出逢った頃の二人は、もうすでに主従関係が出来上がっていたから、こんな話を聞くのは始めてだ。 俺の知らない、光と優の話。 正直知ったところでどうでもいいが、この暇な時間を潰すのには丁度いいのかもしれない。そう思い二人を見れば、昔を懐かしむような穏やかな表情をしていた。 「光は、中学の頃から目立っていたんだが……中学の入学式で、新入生代表の挨拶が自分じゃなかったことに勝手に腹を立てていたらしくてな」 「挨拶してたのが、俺じゃなくて優だったんだもん。こんな地味なヤツが俺より目立ってて、しかも挨拶してるなんてムカつくじゃん?」 どんな理由があるのかと思って、真剣に聞いてやろうとした俺がアホだったらしい。 ……嫌いな理由がバカすぎるぜ、王子様。

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