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第361話

「光ってさ、実は結構なバカじゃねぇーか?」 「雪夜、お前は今更なにを言っているんだ。この三人の中なら、一番バカなのは光だぞ」 「二人とも酷くない?俺、そんなにバカじゃないよ?」 金髪にした理由も、優を嫌いだった理由も。 俺からしたら、バカだとしか言いようがないけれど。 ……まぁ、でも。 今はそれよりも、二人の馴れ初めとやらを訊いてやろうじゃねぇーか。 「バカなのは、とりあえずおいといてやる。けどよ、嫌いなヤツをどうやったら好きになるワケ?」 一目惚れだった俺と星との出逢いとは異なる、光と優の出逢い方。嫌いと好き、両極端にある想いが入れ替わるコトなどあるのかと、俺は半信半疑で問い掛けた。 すると。 光が小さく溜め息を吐き、優をチラ見して。 「ずっと俺が勝手に嫌いだって思ってて、クラスも違ったし話すこともなかったんだけど。三年のときの生徒会で、俺が会長で優が副会長やってくれたんだ。その顔合せのときにね、優に言われたの……君は、ちゃんと笑えていないねって」 俯いた光の表情が、俺からは見えない。 前髪で隠れた瞳に小さく動く口元、いつもより少しだけ、か弱く見えるその姿は、どこなく星に似ている気がした。 「初めて交わした言葉がソレだよ?地味で全然喋んないクセに、一度口を開けばすっごい生意気で……優を躾けるの、大変だったんだから」 「ちょっと待て、この優が生意気って全くイメージわかねぇーんだけど……どういうコト?」 ……このオッサンが、生意気って。 昔の優は、ただの眼鏡野郎じゃなかったのか。 俺がコイツらに話していない過去があるように、この二人にも俺の知らない過去の顔があるのだと気づくことはできたけれど。 「だから、躾けるの大変だったって言ったじゃん。この男、本当は俺より性格悪いし、俺より悪魔で鬼畜だからね」 「それは、昔から光限定での話だ。それに今はちゃんと躾けられて、大人しくしているだろう。いつだって、俺は王子様の命令に従うさ」 クールにそう言う優だが、眼鏡の奥の瞳がいやらしく笑っているように見えるのは俺だけなんだろうか。 「ウソ、酒飲むと出てくんじゃん!俺の言うこと全然聞いてくれなくなるもん……アレじゃ、どっちが執事だか分かんないッ!!」 ゴールデンウィークのとき、光が優に完敗していたことを思い出す。素が出ると、どうやらこの二人の主従関係は逆転するようだ。 「お前さ、普段わがまま言いたい放題なんだし、酒飲んだときくらい優の好きにさせてやれよ。そんで、そんな生意気な眼鏡クンは光のどこに惚れたんだ?」 「光は無表情な俺と正反対で、いつも笑っていたんだ。だがな、それが作り物の笑顔なんだと気づいたとき、ありのままの光の顔を見てみたくなったんだよ。それからは、なんとなくでこの関係だ」 なんとなくで、生意気な優が光の奴隷になり、この強い主従関係が出来上がるとは考えにくい。というよりも、そのなんとなくの部分が一番気になってしまう。 ただ、光も優も肝心なことは言わないタイプの人間だ。むしろ今日は、よく話してくれたほうだろう。

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