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第362話
「本当にね、色々あったよ……だけど優のおかげで、俺はせいの前では笑っていられる。せいが好きな、お兄さんでいることができるの」
珍しく、光が素直だ。
いくつもの顔を持つこの男に、振り回されているのは優だけじゃなく俺も同様なんだと思う。
「そういうもんか。けど、星は俺によく言ってる。光は、優といるときが一番幸せそうだって」
「俺も一度、星君にそう言われたことがあったな……あの時から星君はなんとなく、俺達の関係に気づいていたのかもしれない」
優の膝で光が眠っていたとき、星はこんなに幸せそうな光を見たのは初めてだと言っていた。あのときのアイツは、二人の関係に気づいていたというよりも、単純に思ったことを口にしただけだろう。
だが、光が星を見てきたように、星もまた、光のことを側でずっと見てきたハズだから。
「大好きなお兄ちゃん、だしな……アイツは俺と出逢うまで、光のコト男として好きだって勘違いしてたし。光に無理矢理押し倒されても、優との関係を知っても、星は変わらず兄貴として光が好きなままだ」
星の話題になった途端、ここに来たときとは違う、なんとも和やかな空気感が俺たちを包み込む。これも星くんマジックか……なんて、思った俺の頭は相当イカれている。
けれど。
「せいはね、本当に可愛い弟だよ。小さい頃から素直で、純粋で、真っ直ぐで……俺とは違うあの笑顔を、いつまでも守ってあげたかった」
そう呟く光は、いつになくキレイな笑顔で俺の隣の空間を見つめていて。そんな光の髪に触れ、愛おしそうに笑う優はずっと、光の支えになってきているのだろうと思った。
「今でもお前は、星君を守っている。光が実家から出ないのは、星君がいるからだしな」
「優、それ以上は喋んないでくれる?ユキ、俺の大事なせいを捨てたら殺すからね」
ついさっきまでの、柔らかい光の空気はどこへやら。ものすごい殺気を感じる光の視線に、星への想いが溢れている。アイツは俺だけじゃなく、たくさんの愛に包まれてんだって、そう実感させられた。でも、星に愛されていいのは俺だけだから。
「殺れるもんならやってみろ。捨てるワケねぇーだろうが、一生かけて愛してやるよ」
俺に向けられた光の視線を真っ直ぐに受け止めて、そう言った俺は星を想い微笑んだ。
「……逆に、雪夜が捨てられるかもしれん」
「そしたら、両手叩いて笑ってあげる」
「お前ら、どっちも頭から角生えてんぞ」
優しくない友人からの言葉。
それでも、穏やかに笑う二人に俺もつられるようにして笑ってしまう。
「なんてね、せいの幸せは俺の幸せだから。ユキといるせいは、すごい幸せそうで可愛いの。せいのあの表情は、ユキにしかさせれない」
思わず頬が緩んでいくのが自分でも分かるくらいに、光の言葉は嬉しかった。俺にしか感じさせることのできない幸せを、いつまでもアイツに与えてやるコトができるのなら……それは、俺の幸せになるのだから。
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