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第367話

外に出たオレたちを迎えてくれたのは、綺麗な星空で。都会のほうに住んでいるオレや雪夜さんとは違い、優さんの家はとても静かな街並みの場所にあるからか、夜空がいつもより澄んで見える気がした。 ベランダから後ろを振り返っても、カーテンでしっかりと遮られた部屋の灯りは外へ漏れ出ることはなくて。優さんの家のカーテンが優秀なことも、星が綺麗に見えることに関係があるかもしれないなんて思った。 ジッポの音が聞こえて、甘く揺らぐ紫煙がオレの鼻を掠めたとき、雪夜さんは夜空を見上げていたオレを抱き寄せてくれる。 「学校終わってすぐだったから、疲れただろ。大丈夫か?」 「大丈夫です。優さんも、美味しいって言ってくれたし……オレ、やっぱり料理するの好きなんだなぁって思えたから」 オレが、誰かのためにできること。 少しでも、兄ちゃんや優さん、雪夜さんみたいに幸せな気持ちになってもらえるなら、誰かの笑顔が見れるのなら、オレが目指す夢は一つなんだ。 「お前って、本当可愛いヤツ」 オレのおでこにチュッとキスを落とした雪夜さんは、直ぐに煙草を咥えてしまう。 「あの、雪夜さん……」 こんなところでお願いするようなことじゃないは、分かっているけれど。オレがキスしてほしい場所は、おでこじゃない。そう思っても言い出すことができないオレは、ただ名前を呼んで、雪夜さんを見上げることしかできなくて。 「星くん、キスしてほしいって顔に書いてあるけど、どこにほしいか言ってみろ」 ニヤリと笑う雪夜さんは、意地悪だと思う。 オレがそんなことを言えないのは、雪夜さんが一番よく分かっているはずなのに。 「えっと、その……」 言いかけて、でもやっぱり言えなくて。 雪夜さんから視線を逸らしたオレは、唇を噛んで黙り込む。ちゃんと言葉で言うことができるなら、オレだって最初からしてほしいって強請っているのに。 「星」 たった二文字の名前を呼ばれただけなのに、甘く響く雪夜さんの声にオレの身体は反応する。 何も言わなくても重ねてくれた唇からは、意地悪さの欠片もない優しさで溢れていて。雪夜さんにぎゅっと抱きついたオレは、大好きな香りに包まれ目を閉じた。 「星くん、ここ外」 笑いながら言われた言葉は、オレが雪夜さんにいつも言う言葉だ。分かってる……ここが外だってことも、普段はオレがだめって言うことも、でも今は離れたくないから。 「もう少し、このままじゃだめですか?」 小さく呟いたオレの後ろ、回された両手で煙草の灰は空き缶に落とされる。 「煙草、吸い終わるまでな。それまでは、お前が離れたくなっても離してやんねぇーよ」 「雪夜さん、大好き」 「知ってる、俺もお前が好き」 囁かれた言葉の後で、雪夜さんが煙草の火を消してもずっと、オレを抱きしめてくれていたことに気づいたのは、雪夜さんの空いた片手がオレの服の中に入り込んできたときだった。

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