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第369話

普通の部屋。 ただベッドがやたらと大きいサイズなのと、そのベッドを映すように大きな鏡があること、ご丁寧に枕元に置かれた避妊具があるってこと以外は、普通。 「雪夜さん、ここってその……」 ……いわゆる、ラブホテルってとこなんじゃないんですか。 制服のジャケットは雪夜さんの車の中、代わりに着せられたのは雪夜さんが羽織っていたパーカーで。車から出たときから、部屋に入るまでのあいだ、オレは緊張しすぎてパーカーのフードを深くまで被り、雪夜さんの後ろでずっと下を向いて歩いていた。 「連れてくる気はなかったんだけど、お前がナニ渡されたか教えてほしいって言うから」 「……それはっ、言いましたけど」 だからって、なんでオレはここにいるんだろう……そう思い、突っ立ったまま小さく首を傾げたオレと、腕時計を外す雪夜さん。 「優から渡されたのは、ここのメンバーズカード。アイツら、本当にこういうのよく知ってんのな……二人だけの時間を、ゆっくり楽しんでくれだとよ」 あんまり考えたくはないけれど、きっと雪夜さんはこういう場所に来るのは慣れているんだ。でも、オレはこんな場所初めてでどうしたらいいのか分からないし、雪夜さんの言ってる意味もよく分からない。 部屋に入っても、パーカーのフードを深く被ったまま、固まるオレを雪夜さんは軽々抱き上げるとふわりと笑ってくれる。 「星くん、緊張しすぎ。お前がこうなるって分かってたから、連れてくるか迷ったんだけど……外でもねぇーし、俺しかいねぇーから、好きに寛いでいいんだぜ?」 「でもっ……」 「ほら、こっち。とりあえず、座ってテレビでも観とけ」 そう言われ、オレはベッドの上にちょこんと降ろされた。ついでに、テーブルの上に置かれていたリモコンを雪夜さんから手渡されて。そのまま雪夜さんは、オレの膝に転がってくる。 こうしていると、確かにいつもと一緒のようだけど。 テレビのチャンネルをコロコロと変えていたオレは、流れてきた映像に目を丸くしてしまった。びっくりして、すぐにチャンネルを変えても驚きとドキドキは止まらない。 そんなオレの慌て果てた姿に気づいた雪夜さんは、伸ばした手でオレの髪に優しく触れてくる。 「星、お前AV観たコトねぇーの?」 「あるわけないじゃないですかっ?!」 一瞬だったけれど、女の人が喘ぐ声と生々しい光景を目にしたオレの頭はパニックで、今にもフリーズしてしまいそう。 「そんなに顔赤くしちゃって、恥ずかしい?」 「……当たり前、です」 「星は俺と、もっと恥ずかしいコトしてんのに?」 「もうっ、雪夜さんっ!」 ドキドキと、うるさい心臓の音は止まらなくて。 「なんてな、それより一緒に風呂入ってさっさと寝るぞ」 「ここで、寝るの?」 「明日の昼前までは自由だから、普通のホテルと変わんねぇーだろ?」 ……全部違うと思います、雪夜さん。 そう心の中で呟いたオレは、起き上がってバスルームへと向かう雪夜さんを追いかけた。

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