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第379話
「兄貴、カウントアップでOK?」
「よろしく、やーちゃん」
コンッとお互い拳を合わせたら、ゲームスタートの合図だ。ダーツでゲームの種類はいくつかあるが、単純で分かりやすいカウントアップを俺は選択した。
1ラウンドはダーツ3投、それを8ラウンドまで繰り返して、得点の高い方が勝者となる。ダーツボードはエリアナンバーで分かれていて1から20と中心の50、あとはダブルやトリプルがあるが、とりあえず投げて点数の多い方が勝ちっていう、シンプルなゲームだ。
「やーちゃん、先に投げていいぜ」
先攻後攻、特に優越もなく自由なカウントアップ。俺から先に投げることになったのはいいが、得点を多く稼げる20のトリプルで60を狙うか、真ん中のブルで50を狙うか迷う。
初手をどう攻めるか、ある程度思考して。
真ん中のブル狙いで投げることを選択した俺は、ダーツボードの中心を、真っ直ぐ狙って投げ込んだ。矢は綺麗に中心へ向かい、鳴り響く音がブルに刺さったことを教えてくれる。
俺の斜め後ろ、カウンターではなくダーツスペース専用のイスに腰掛け、俺が投げ終えるのを待つ兄貴はテーブルに頬杖をつき俺を見る。
「さすが俺の弟、相当ヤり慣れてんね。1投目でブルなんて生意気にもほどある」
「そりゃ、どーも」
点数よりも牽制を選択した俺に、投げ掛けられたのは兄貴なりの褒め言葉だ。けれど、それに俺は素っ気なく返事をするだけだった。中心の中心、ダブルまで取り切れなかったのは少しばかり悔しく思うから。
……カウントアップなら、ダブルじゃなくてもブルに入りゃ、50なのは変わんねぇーんけど。
そんなことを思いながら適当に狙い定め、残り2回を投げ終えて。俺の得点は120、なかなかのスタートだった。
「俺、やーちゃんのコトなめてたわ。2投続けてブルとか、可愛くねぇ」
スーツのジャケットをイスの背もたれに脱ぎ捨て、袖をまくる兄貴。緩められたネクタイを更に緩め、シャツのボタンを2番目まで外して。無駄に色気を放つ飛鳥の姿を俺は流し見る。
1ランウドを終えた俺が刺さった矢を抜き取りボードから離れていくと、すれ違った兄貴はダーツの矢で俺の首筋をスッと撫で上げ、スローイングラインに立つ。
イスに座って煙草を咥えた俺に、飛鳥は振り返ると口角を上げて笑った。
「……あ、言い忘れたけど。お前が負けたら首のソレつけたヤツと1発ヤらせろ。賭けのねぇゲームなんざ、つまんねぇからな」
「ハァ?!ざけんじゃねぇーぞ、クソ兄貴!賭けるもんなら、他にいくらでもあんだろーがッ!」
「吠えんじゃねぇよ、クソガキが。お前が勝てばいいだけの話、初めて惚れた相手をこの俺から守り抜いてみやがれ。男だろ、やーちゃん」
星が男女関係なく、この兄貴なら本気でヤり兼ねない。ついさっきまで惚れた相手を大事にしろって、俺に言ってた兄貴はどこいきやがったんだ。
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