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第380話
どうしてこうも、悪魔は賭けごとが好きなのだろう。光のときも、そしてこのクソ兄貴も……どちらも、賭けられた相手は同じだ。
女なら抱けりゃ誰でもいい、と。
どうやらそれは、俺のモノでも変わらないらしい。誰でもいいなら俺のモノに手出すな、と言いたいところだが。星は男だけど、この兄貴は自分がシたいようにするだろうから。
けれど、アイツは俺のモノだ。
兄貴だろうと、光だろうと、誰にも渡さない。ダーツの一つで俺の大事な星くんを取られてたまるか、このクソ兄貴。
俺はそんなことを思いながら、片目を瞑り煙草を咥えたままリズムよく投げていく飛鳥の姿を眺めていた。
「兄貴、今何点?」
「950」
「んじゃ、そのまま俺の勝ちだ」
「やーちゃん、あと1ラウンド残ってんだろ。勝負は最後までヤッてみねぇーと分かんねぇーぜ?」
8ラウンド目を終えて、俺の合計得点は1120点。1ラウンドの3投を右手で適当に投げてしまったことを悔やんでも、それはもう遅い。
兄貴が俺に勝つためには20のトリプルで60を、3投外すことなく確実に命中させなきゃならない。一度でも兄貴が外せば、その時点で俺の勝ちが決まる。
いくら兄貴と言えど、この点数差を埋めることは厳しいだろう。
「トリプル連続はキツいぜ、兄貴」
「うるせぇークソガキ、黙って見てろ」
ただの遊びだが、これは真剣勝負だ。
鋭くボードを見つめる飛鳥の表情が、緩むことはない。
そんな兄貴が、1投目を投げた瞬間。
鳴り響いたのはブルに刺さった音ではなく、兄貴を呼び出すスマホの音だった。飛鳥の手から放たれた矢は20のシングルに突き刺さり、この時点で俺の勝ちは決まったことになる。
次の矢を投げることはせず、スマホで通話し始める飛鳥。仕事か、女か……そんなところだろうと思った俺は、安堵の息を吐く。
一体、何を考えて、何を思い、何故こんな賭けをさせられなきゃならなかったんだろうか。飛鳥のことを知っているようで、全く知らない俺は、この兄貴に振り回されてばかりいる。
「……俺の負けだ、やーちゃん。隼ちゃんから電話さえ掛かってこなきゃけりゃなぁ……まぁ、勝ったとしても最初からお前のもんに手出す気なんてさらさらねぇけど」
そう呟くように言った飛鳥は俺の髪をくしゃりと撫で、柔らかい表情でフッと笑ってみせる。
「ナニ、負け惜しみ?」
「んなだっせぇこと言わねぇよ。あのくらい言わねぇと、お前左で投げねぇだろ。ヤるなら最初から、ちゃんと利き手で投げろ。俺をナメてかかった、お前へのお仕置きだ」
普段なら勝ちに拘ることはないのだが、今日は譲れなかったゲームの勝敗。
先に投げていいと言われたのは、両利きの俺がどっちで投げるかを確認するため。まんまと兄貴の策に乗せられ遊ばれた俺は、舌打ちして兄貴を睨みつけた。
「んな可愛い顔してると、また俺に遊ばれるぞ。お兄様に勝とうなんざ100年早ぇんだよ、クソガキ」
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