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第382話
【星side】
「先輩ッ!マジで、マジで勘弁ッ!!」
学校のお昼休み。
午後の授業のため、実習室へと向かっていたオレと西野君の前を、叫びながら通り過ぎていく生徒が一人。
「弘樹くんって、元気だね」
「うん、いつでもあんな感じ」
サッカー部の先輩を追いかけて、長い廊下を走っていくのは息を切らした弘樹だった。
「彼女の名前言ったら返してやるよッ!コレ、絶対女からだろっ?!」
風のようにオレと西野君の横を過ぎていったかと思えば、今度はオレたちの前で始まったのは弘樹と先輩のやり取り。
追いかけてきた弘樹に対して、意地悪に笑ってそう言う先輩はとても楽しそうだけど。立ち止まった先輩の前で、膝に手をつき息を整える弘樹は、先輩の言葉を全力で否定していた。
「彼女なんかいないッス!本当にッ、マジで!!」
確かに、弘樹に彼女はいない。
コレ……と、ぶら下げられた先輩の手にある物は、オレが弘樹に頼まれて作ってあげたお弁当の袋だから。
「お前の母ちゃんが作ったもんじゃねぇのは、俺ら分かってんだよ!どう考えても女だろ?!こんなハイレベルな弁当、彼女からの弁当に決まってらぁ!」
「だから、彼女じゃないッス!」
「じゃあ誰だよッ?!返して欲しいなら言えッ!!」
音が響く廊下で、大きな声を出し合う二人を眺めて、西野君は不思議そうに首を傾げてオレを見る。
「……あれ、青月くんの袋じゃない?」
気づいてほしくないことに気づいてしまった西野君に、オレは少しだけ溜め息を吐いてしまう。どこにでもありそうなストライプのお弁当の袋なのに、なんで気づいちゃうんだろう。
「うん……ちょっと、弘樹に頼まれて」
詳しいことを話すと、ややこしくなってしまう。そう思ったオレは、西野君の問いに最低限の情報のみで答えた。
「弘樹くん、助けてあげなくていいの?青月くんのだって、言ってあげればいいのに」
「ううん、いいよ。弘樹なら大丈夫」
親友のピンチを助けないなんて、オレは最低な人だって西野君には思われちゃうのかな。でも、助けられない理由がオレと弘樹にはちゃんとあるんだ。
だけど、それを西野君に話すわけにはいかなくて。実習で使用するコックコートを胸に抱えていたオレは、ぎゅっとソレを握りしめて、先輩に問い続けられる弘樹の横を通り過ぎた。
「青月くんって、冷たい人」
西野君の言葉が、胸に刺さる。
でも、西野君にどう思われようと、オレは弘樹との約束を守らなきゃならないから。
「先輩ー、マジで勘弁してくださいッ!!」
弘樹の声が聞こえて心配になったオレは、一度だけ振り返って弘樹を見る。ばっちりオレと目が合った弘樹は、心配するなと言うように笑いかけてくれた。
そんな親友とのやり取りを真横で盗み見ていた西野君が、小さく舌打ちしていたことなんて、オレは気づくことがないままだったんだ。
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