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第383話
西野君に、言えなかった理由。
それには、雪夜さんが少しだけ関係している。
雪夜さんのポジションの話で、弘樹の予想が当たっていたら、お昼を奢ってあげる約束を前にしたけれど。部活で忙しい弘樹とオレは、なかなか時間が合わなくて。
それなら忘れる前に、お弁当を作って欲しいって……弘樹から頼まれたのが、この出来事の始まりだったりする。
弘樹に何があろうと、オレが作ったことにはしない。サッカー部の先輩から絶対にからかわれるだろうけど、オレには迷惑をかけないようにする。だから1日だけ、とっておきの弁当を作って欲しい。
それが、弘樹から言われた約束事だった。
だからオレは弘樹を助けられなくて、弘樹もそんなオレに怒ったりせずに、関係ないフリをしてくれたんだけれど。まさかあのタイミングで、ばったり弘樹と出会ってしまうなんてオレも弘樹も思っていなかった。
「先輩、マジ鬼畜……でも、弁当はすごい美味かった。作ってくれてありがとう、セイ」
部活が終わってから、お弁当箱をわざわざオレの家まで届けに来てくれた弘樹。今はそんな弘樹と二人、オレは家の裏の公園にいる。
「ううん、こちらこそ。美味しいって言ってもらえるのは嬉しい。オレ、何もできなくてごめんね……西野君に、青月くんは冷たい人って言われちゃった」
夕日も落ち、暗くなった空の下。
公園のブランコに腰掛けて、漕ぐこともせずに今日の昼休みの出来事を思い返して、ただ話すだけのオレと弘樹。
「俺が言い出した約束だし、セイは気にすんなよ。それより、なんで西野がセイにそんなこと言うんだ?」
先輩との会話に必死だった弘樹は、あのときオレと一緒にいた西野君の存在に気づいていなかったみたいで。不思議そうな顔をしてオレを見る弘樹に、オレは西野君にバレてしまったことを説明した。
「なるほど、そういうことか……そんでセイがオレを無視して通り過ぎたから、冷たい人って思われたんだな。俺のせいだ、ごめん……セイ」
「オレも悪いから。オレがいつも使ってる袋じゃなくて、兄ちゃんの袋を弘樹に渡せばよかった。そしたら西野君にも気づかれずに、オレと弘樹だけの秘密で終わったことだったかもしれない」
雪夜さんには、弘樹にお弁当を作る話はしてあるから、正確には二人だけの秘密じゃないんだけれど。
さらに厳密に言うなら、お弁当箱の用意をしてくれたうちの母さんも知っているし、その様子を眺めていた兄ちゃんも知っている。
なんて、どこからを秘密と呼ぶべきか考えていたオレと、無言のままの弘樹。
そんな少しの沈黙のあと。
弘樹はブランコから降りて、隣にいる俺の前に立つ。風に揺れる錆び付いたブランコは、キィっと鈍い音を立て悲鳴を上げていた。
「西野ってさ……アイツ、あんまりいいヤツじゃないかもしれない」
「……どうして、そう思うの?」
確かに西野君は、ちょっとトゲがある感じはする。でもだからって、西野君とはそんなに関わりがない弘樹に、どうしてそんなことを言われなきゃならないんだろう。
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