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第384話
「セイにはさ、話すかどうか迷ってたけど……俺、見ちゃったんだ」
「見ちゃったって、何を?」
弘樹がなにを目撃していたのか、オレにはさっぱり分からなくて。ブランコのチェーンを持ち、オレは弘樹に向かい首を傾げた。
「夏休みにさ、西野がリーマンっぽい中年親父と腕組んで歩いてるとこ……駅前のカラオケに、二人で入ってった。あれはどう見ても、おかしい関係だ」
真っ直ぐにオレの目を見てそう話す弘樹は、真剣そのもので。冗談じゃないことくらい、弘樹を見ればすぐに分かってしまうのが辛かった。
「……でも、おかしい関係って」
「そのままの意味……男同士ってのもあるけど、セイとあの人みたいな関係じゃないことは確かだと思う」
どうして、弘樹はそんなことが言い切れるんだろう。モヤモヤとした雲がかかっていくみたいに、胸の中が鈍よりしていく。
「弘樹、そこのカラオケボックスって……もしかして、駅前の安いところだったりする?」
どんよりとした気持ちを晴らしたくて、オレは少しだけ期待を込めて弘樹にそう問い掛けた。弘樹が、違うと言ってくれることを祈って。
でも。
「なんで、セイが知ってんの?」
弘樹の返答は、オレの期待を簡単に裏切ったんだ。気持ちは晴れるどころが沈んだまま、オレは仕方なく事情を弘樹に説明する。
「夏休み前に西野君に誘われて、そこで一緒にテスト勉強したことがあるから」
オレには一人で来るって、西野君はそう言ってたのに。嘘だったのかな……でも、誰にだって言いたくないことの一つや二つはあるし、オレだって雪夜さんのことは西野君に言っていない。
知らぬが仏って、まさにその通りだと思ってしまったオレは、悪い人だ……せっかく仲良くなれたと思った相手だけれど、西野君に真実を問いただす勇気なんてオレにはないんだもの。
これから学園祭が控えている学校行事の中で、オレは西野君と今まで通り話していけるのかなって、ちょっぴり不安になってしまった。
段々と寒さを感じさせる秋風が、オレの好きな桜の木から赤く色づいた葉を奪っていく。草がけに隠れて鳴いている虫の声は、余計にオレの心を切なくさせて。黙り込んだオレに、弘樹は静かに口を開いた。
「セイ、西野には気をつけたほうがいい。可愛い顔してるからって、セイみたいに性格もいいとは限らない。アイツ、結構ヤバいヤツだ」
「でも……」
そうかもしれない。
だけど、そうじゃないかもしれない。
まだ半年……雪夜さんと西野君、知り合った時期は一緒なのに。どうしてこんなに西野君だけ、信用できないって思ってしまうんだろう。
「セイ、何かあってからじゃ遅い……今日みたいに、どこでどうなるかなんて誰にも分からないから」
「それなら弘樹の言ってることだって、本当におかしな関係なのかは分からないじゃん。友達だと思った相手を、疑うことは良くないよ……」
そう、良くない。
弘樹に向けて放った言葉は、自分自身に言い聞かせるためのものだった。
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