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第385話
弘樹と話したあと。
ご飯を食べてお風呂に入っても、心のモヤモヤは消えないままで。ショップのバイトが終わってLINEをくれた雪夜さんに、オレは返事をしたんだけれど。
オレの返事に雪夜さんから返ってきたのはLINEの文字じゃなくて、雪夜さんの声だった。明日が今日になる時間、いつもならオレはとっくに夢の中。
『星がこの時間まで起きてるなんて、珍しいな……いい子は早く寝るもんだけど、眠れねぇーなら少しだけでも声聞かせろ』
少しだけでも声を聞いていたいのは、オレの方なのに。スマホ越しの声は普段と聴こえ方が違って、耳元で響く優しくて甘い雪夜さんの声に、オレはドキドキしてしまうから。
「あの、えっと……お疲れさまです」
『ん、お疲れ。星くん今なにしてんの?』
「布団にくるまって、雪夜さんとお話してます」
右手でスマホを持ち、左手で掛け布団を抱きしめて。真っ暗な自室のベッドの上で、オレは丸まっているよって。
そう雪夜さんにオレが伝えると、スマホ越しの雪夜さんはクスッと笑ってこう言った。
『星、自分のベッドからは落ちんなよ。転がっても、助けてやれねぇーからな』
「あれはっ、その……恥ずかしいから、思い出させないでください。元はと言えば、雪夜さんが意地悪するから、あんなことに……」
『意地悪な俺も好きって、お前が言ったんだろ』
「そうですけど、そうじゃなくてっ」
あのときは恥ずかしくて、広いベッドの上を転がっていったら落ちそうになり、雪夜さんに助けてもらったんだ。
思い出したらやっぱり恥ずかしい出来事に、オレは顔を赤くしてしまう。そうして、雪夜さんのことを考えて、何も言えなくなってしまったオレだけれど。
『星……今はそうやって、俺のコトだけ考えとけ。お前がちゃんと寝付くまで話しててやっから、余計なコトは考えなくていい』
ただ、眠れなかっただけ。
それだけなのに、雪夜さんは気づいてしまったんだ。西野君のことを色々と考えて、オレはどうしたらいいか分からなくて。
寝付けなくなってしまったオレに、理由を訊かないでくれた雪夜さん。そんな雪夜さんの声はオレの心を照らしてくれて、心の中の鈍よりとした雲が少しずつ晴れていくような気がした。
「……雪夜さんって、太陽みたいですね」
『星くん、言ってる意味が全然分かんねぇーだけど』
「オレも、よく分かんないです。でも、雪夜さんのことを思うだけで、なんだか心が暖かくなったから……太陽みたいだなぁって」
『可愛いコト言ってくれんじゃん。でも俺、太陽なんて柄じゃねぇーけどな』
少しだけ照れ混じりに笑う雪夜さんが、スマホ越しにいる。そう思うと、なぜだか自然と穏やかな気持ちになれた。
「雪夜さん……明日は学校終わったら、雪夜さんのお家で待っててもいいですか?」
『いいに決まってんだろ、明日っつーかもう今日だ。バイト終わるまでは帰れねぇーけど、お前は俺ん家来たらそのまま泊まってけ』
日付けが変わって、今日はもう金曜日。
今から寝て、学校へ行って、授業を受け終えればオレは雪夜さんに会えるんだ。
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