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第386話
雪夜さんの声を聞けて安心したオレは、電話のあとすぐに寝付くことができた。オレが通話したまま寝落ちしたから、雪夜さんがどのくらいあいだ話していてくれたかは分からないけれど。
今日は雪夜さんに会えるんだって、オレはどこか浮かれた気持ちで学校へ来て授業を受けていたんだ。
でも。
午後のHRが始まり、睡眠時間が足りていないオレのぼんやりとした頭の中に浮かんでくるのは、西野君のことばかりだった。
今まで感じていなかった、西野君への不信感。
でもそれは西野君と話せば話すほど、大きくなっているような気がして。
周りを見渡せば、クラスメイトはたくさんいる。挨拶を交わすくらいの人、時々お喋りする人、よく話してくれる人……でも、この教室の中でなら、西野君はオレにとって一番仲の良い友達。
人形だって言われていたくらい、人見知りのオレに声をかけてくれた西野君。毎日のように一緒にお昼を食べて、学校のことや趣味のこと、色んなことを二人で話しているうちに、周りのクラスメイトとも、やっとコミュニケーションが上手く取れてきたんだ。
このクラスで、オレのことを人形だってからかう人は誰もいない。特にクラスの中で目立つこともないけれど、幼いころのように惨めな思いをすることもない。それはきっと、西野君のおかげだと思う。
雪夜さんのことは、西野君に言えないけれど。でも、オレは友達だって思っている。それなのに……どうしてオレは、こんな気持ちになってしまうんだろう。
「それでは、スイーツカフェに決定します」
委員会の子の声がする。
オレが一人でまったく違うこと考えていたあいだに、学園祭の出し物が決まったみたいだった。
「青月くん、青月くんっ」
ちょんちょんっと、肩をつつかれオレは振り返る。
「ナニ?」
心ここに在らず状態のオレが返事をした相手は、もちろん西野君だ。
「学園祭に、青月くんの彼女って来るの?」
「……え?」
「来るならこっそりでいいから、青月くんの彼女さん紹介してほしいなと思って……ダメかな?」
そう言って笑う西野君は、とても可愛い。
でも、西野君が何を考えているのか、その可愛いらしい笑顔からは読み取れなくて。
「……ごめんね、来ないんだ」
そう言ったオレに、西野君は残念そうにしていた。そもそも彼女じゃないから、西野君に雪夜さんは紹介できない。でも、雪夜さんが来ない理由はそれだけじゃなくて、単純にオレが来てほしくないからだ。
オレに見せる意地悪な笑い方も、優しく微笑んでくれることもなくて。いつもの怠そうな雰囲気さえも感じさせない、完全接客モードの雪夜さんを、わざわざ学校で見たくなんかない。
それじゃなくても、雪夜さんは見た目だけで人を惹きつけるから。
学校内の女の子たちに囲まれ、内心どうでもいいとか、面倒くさいって思いながらも、爽やかな営業スマイルで笑う雪夜さんを想像してしまい、オレが吐いた溜め息は大きかった。
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