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第387話

「星くん、いてぇー」 学校帰り、そのまま雪夜さんの家に泊まりに来たオレは、バイトが終わって帰ってきた雪夜さんに、ガブりと噛みついている。 前に会ったとき、雪夜さんの首筋に初めてつけたキスマークはもう消えていて。新しい痕を残すように噛みついた鎖骨から、オレはゆっくりと口を離すとぎゅっと雪夜さんに抱きついた。 「帰り遅かったから、寂しかった?」 よしよしって、雪夜さんはオレの頭を優しく撫でてくれる。噛みついても怒らないで、こうして甘やかしてくれる雪夜さんだけど。 「ううん、そうじゃなくて……」 今日もバイトで、不特定多数の人たちに微笑みかける雪夜さんを想像して。雪夜さんの帰りを待つあいだ、一人で勝手に嫉妬していたから思わず噛みついちゃいました。 なんて、オレの気持ちがわがまますぎて、雪夜さんにそんなことは言えない。 「噛むのもいいけど、先にこっち」 「…んっ」 黙り込んだオレに、ふわりと重なった雪夜さんの唇。抱きしめられる感覚はいつもと変わらず、とても安心できるから。 「ただいま、星」 「……おかえりなさい、雪夜さん」 嫉妬していた自分が恥ずかしくなるほど、雪夜さんはオレに、オレだけに、甘いときを与えてくれる。淡い色の瞳が柔らかく細められ、ニヤリと笑う表情は、オレだけが知っている雪夜さんだって思えることが嬉しかった。 「あの……お風呂とご飯、どっちが先ですか?」 ぎゅっと抱きついたまま、雪夜さんを見上げてそう訊いたオレに、雪夜さんはクスッと笑って耳元で囁いてくる。 「それともオレにする?って、訊いてくんねぇーの?」 「っ、ちょっと…」 電話越しじゃなく、直接響く雪夜さんの声に身体の力が抜けていく。温かい吐息と耳に触れる唇が気持ちよくて、もっとしてほしいって思ってしまった。 でも。 「なんてな、今すぐにでも喰いてぇーとこだけど……先に風呂入って、飯にするか。星くんはあとでゆっくり可愛がるから、そのつもりでいろよ」 思いの外、オレからすんなりと離れてしまった雪夜さんが恋しくて。 そのつもりって、どんなつもりでいたらいいのかオレには分からないけれど。でも、熱くなったオレの身体は、素直に雪夜さんを求め始めているから。 「……今じゃ、だめですか?」 「星?」 「オレ、雪夜さんを独り占めしたいんです……だからっ、その」 誘い方なんて、知らない。 だけど、ほしくて。 雪夜さんの手を取り、精一杯背伸びをして。オレから求めたキスに優しく応えてくれた雪夜さんは、軽々とオレを抱き上げベッドへと押し倒す。 「いくらでも独り占めすりゃーいい、俺はお前のもんだから。お誘いありがと、星くん」 甘く揺れる瞳が好き。 触れる手も、抱きしめてくれるこの温もりも。 意地悪も、優しいのも、オレは雪夜さんのすべてが大好きだから。 オレだけの雪夜さんが、今は何より愛おしかった。

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