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第389話

「星、今すっげぇー可愛い顔してる」 「へ?」 「お前はいつでも可愛いけど、今の笑顔は特別……その顔、俺以外のヤツの前で絶対すんじゃねぇーぞ」 オレが今、どんな表情をして笑っているのか自分じゃ分からない。でも、雪夜さんの匂いに安心して、触れ合えることに喜びを感じて。交わす言葉の多くで愛を伝え合えば、自然と幸せは増えていく。 上手に言葉にはできないけれど。 雪夜さんと一緒だから、今のオレは幸せを感じることができて、笑顔でいられると思うんだ。 「きっと、雪夜さんだけの特別です……オレ、雪夜さんと一緒にいられるときが、一番幸せだって思うから」 「ん、いい子。この先も、俺だけのお前でいて」 淡い色の瞳が細められて弧を描くとき、それはオレが大好きな雪夜さんの笑顔になる。雪夜さんを誰にも渡したくない気持ちが大きくて、不特定多数の人にすらやきもちを妬いてしまうオレだけれど。 「雪夜さんも、オレだけの雪夜さんでいてください」 こんなオレを愛してくれる雪夜さんに、素直な想いを伝えたくて。呟いたオレの唇に、柔らかく重ねられた雪夜さんの唇は甘かった。 「当たり前だろ……愛してる、星」 片手でオレの頭を撫でつつ、作業を進め始める雪夜さん。忙しい毎日の中でも、オレとの時間を大切にしてくれる雪夜さんからの優しさを感じる。 オレが雪夜さんのすべてを受け入れたいって想うように、雪夜さんもオレのすべてを包み込んでくれるから。 オレの中にあった小さな嫉妬心は静かに消えて、ほんわかと温かい気持ちになっていくんだ。 二人だけの時間を大切にしたくて、でも雪夜さんの邪魔にはなりたくなくて。オレは夕飯の支度を始めようと、まだパソコンと睨めっこしている雪夜さんから離れキッチンへ向かう。 「せーいくーん、今日のメシなに?」 パソコンを見つめたまま、そう尋ねてくる雪夜さんはなんだか子供っぽくて可愛らしい。慣れてきた雪夜さんの家のキッチンに立ち、冷蔵庫を覗きながらオレは雪夜さんの問いに答えた。 「今日は、肉じゃがとお味噌汁と……あとは、適当に副菜何品か作る予定でいますよ」 「珍しく和食じゃん、すげぇー楽しみ。メシ前に終わらせっから、なんか手伝うコトあったら言って」 オレが作る夕飯は、どれも普通の家庭料理ばかりなのに。それでも雪夜さんは、本当に美味しそうにオレが作った料理を平らげてくれるんだ。 それだけじゃない。 今みたいに、雪夜さんは家事をするオレを気遣ってくれるから。 「ありがとうございます。でも、無理しないでくださいね。雪夜さん、昨日もバイトだったんですから」 「それを言うなら、お前も。昨日結構ヤってっから、身体辛かったら無理すんな」 気遣ってくれる言葉とは裏腹に、オレを見てニヤリと笑う雪夜さんの表情に不覚にもドキっとしてしまう。恥ずかしいけど嬉しくて、誰も知らないオレたちだけの時間は、今日も穏やかに過ぎていった。

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