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第393話
『ユキちゃんは、どうしてせいの学祭に行かないのっ!』
「だから、星くんに来んなって言われてんだよ。それに俺、今日ショップのバイトだし」
朝っぱらから光の鬼電で起こされた俺は、星が好きなぬいぐるみのステラを抱え煙草を咥えている。
今日は、星が通う高校の学園祭の日。
忙しい雪夜さんにわざわざ来てもらうのは申し訳ないし、オレだけの雪夜さんがいいから学園祭には来ないでください。
そんな可愛い理由で、星くんに丁重にお断りされた俺は、バイトまでの時間を寝て過ごすつもりでいたのに。電話越しでギャーギャー騒ぐ金髪悪魔に、俺は睡眠時間を奪われた。
『ユキちゃんのことだから、学校でお楽しみでもするのかと思ってたのにぃー』
「アホか。どこに学祭で忙しいヤツ取っ捕まえて、盛るバカがいんだよ。俺はそこまで、猿じゃねぇーから」
『TPOをわきまえる頭すらないクセに、よく言う。ユキちゃんがそんなことしなくても、他の誰かがせいにちょっかい出すかもしれないじゃん?』
「お前、ホントに悪魔だな。アイツの学校共学だし、普通の男なら女に手出すだろ」
そう光に話しつつ、新しく咥えた煙草は三本目。何事もなく文化祭が終わるのを願うのは、本人よりも周りにいる俺たちだ。
『うちのせいくん、男にモテるからね?』
「んなコト知ってるっつーの、何のために俺がバカ犬と連絡取ってると思ってやがんだ。星に何かあってもなくても、弘樹から俺んとこに連絡はくんだよ」
『ユキちゃん、過保護すぎ』
「お前もな。アイツの作るスイーツ食いたいとか星には適当な理由並べて、本当は愛する弟のコトが心配で見に行くんだろ」
星のクラスの模擬店は、スイーツカフェらしいから。比較的、客として光が混ざり込んでも問題ないとは思うが。単純に、学祭を楽しみに行ってくれればいいものの。
『うん、だってせい可愛いもん』
どんだけブラコンなんだ……って、星と出逢う前の俺なら、確実にツッコミを入れているところだけれど。
「行くのはいいけど、目立つ行動は控えてやって。お前、歩いてるだけで目立つから」
『それ、せいにも同じこと言われた。来るのはいいけど、兄ちゃんは目立つから大人しくしてって』
光にからかわれながらも、必死になってお願いする星の姿が目に浮かぶ。普段は人見知りで大人しい星くんは、光と違って学校内で騒いだりするタイプじゃないだろうから。
「アイツに、迷惑掛けねぇーように……それと、星と一緒にいる西野ってヤツ、どんな野郎か確認しといて」
『ホントにひぃ君から全部筒抜けなんだねー、バカだけどいい番犬をお持ちで何より……その頼み受けてあげるから、ユキは心配しないでいい』
光の声色が変わる。
俺が礼を言うより先に、一方的に切られた電話。
学校にいる星のことをいつも以上に気に掛けつつ、俺は煙草の火を消すとバイト先へ向かう支度を始めた。
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