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第394話

心配しないでいいと言われても、気になってしまう星のこと。頼らなきゃならない相手は、今頃呑気に学祭を楽しんでいるんだろう。 ……ただ、そこらのバカよりバカじゃねぇーのが光だ。 俺より悪魔で計算高いアイツなら、遊んでいるフリをしていても見抜いてくるハズだから。弘樹から話に聞いてる西野って野郎が、一体どんなヤツなのか。 バイト中、腕に巻き付けたショップのロゴが見える時計で過ぎる時間を確認していた俺に、近寄ってきた康介はニヤニヤと笑いながら俺を見る。 「白石ぃー、今日このあと仔猫ちゃんとデートでもすんの?」 「いや、今日は仔猫んとこ学祭あっから会う予定はねぇーよ。まぁ、向こうから連絡くりゃ別だけど」 「なんだよ。時間気にしてるように見えたから、てっきりデートかと思った。学祭かぁ、女子高生ってイイよなぁ……」 「お前が言うと、犯罪くせぇーな」 下心丸出しで、笑う康介に呆れてしまう。 こういう輩がいるから、俺は余計な心配をしなきゃいけなくなるのかと……そんなことを思いつつ、今は触れることのできない仔猫のことを考えてしまう。 特にアイツは、人を疑うことをしないから。 思えば俺と出逢ったときも、アイツは俺を疑うことはしなかった。星からすれば得体の知れないヤツだっただろうに、そんな俺の言うこともすんなり信じていいなりになっちまうような星くんだし。 愛らしい容姿に、大人しい性格。 本人はそれらに無自覚で、あまりに無防備だ。 俺はいいが、俺以外はダメ。 自分勝手な想いを抱え、星のことを考えて。一瞬、ボーッとしていた俺に擦り寄ってきた康介は、気持ち悪い笑みを浮かべ俺の肩を抱く。 「実際に高校生と付き合ってる、白石には言われたくねぇなぁ……可愛い仔猫ちゃんと、にゃんにゃんしてるヤツにはよぉー」 「俺はヤリモクで、仔猫と付き合ってるワケじゃねぇーんだよ。お前と一緒にすんな」 肩に回された康介の手を払い除け、店内に客がいないことを確認してから、俺は康介のケツに蹴りを入れた。 「いってぇーッ!白石、お前だって今まで適当に女抱いてたじゃんかっ!!」 「仔猫は別だって言ってんだろ、調子乗んなバーカ」 「ゴメンちゃい……でも、お前ホントに仔猫ちゃん好きなんだな。なんかお前見てると俺、愛とか恋とか分かんなくなってくる」 「なんだそれ、どういう意味だ」 「愛が重すぎると負担になって、軽ければ足りないってなんじゃん。俺にはまだ、軽い下心しかねぇからさ。白石見てて、溺れるほどの愛ってのがどれだけのもんなんだろうって考えてみたりすんだけど……やっぱり、ワケ分かんねぇなって」 「バカが一人で哲学ってんじゃねぇーよ、俺だって分かんねぇーわ、そんなもん。とりあえず、今は仕事しろ」 「うぃー」 だらしなく返事をし、俺から離れていく康介。 チラリと時間を確認しても、時計の針が動くスピードは変わることがなかった。

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